出版社内容情報
ヴァイマル国家とナチズムを生んだ20世紀ドイツ.対極的な二つの社会に一貫するシステムとは何か,そして両者を断ち切る思考とは何か―国民の同意が支えた社会国家の生成という視点から,20世紀型大衆社会の本質に迫る.
内容説明
ヴァイマル国家とナチズムを生んだ二〇世紀ドイツ。対極的な二つの社会に一貫するシステムとは何か、そして両者を断ち切る思考とは何か―本書は、社会国家の生成という視点から、この問いに答えるものである。一九世紀後半からの社会変動に対応して生成した社会国家は、国民の政治参加と国家による社会的生存権の承認を基本原則とする一方、国家による個人の私的領域への介入の拡大ももたらした。国民の同意と参加によって支えられ、国民の健康を重視した国家が、「生きるに値しない人間」の根絶を目指すようになるまでには、どのような紆余曲折を経たのか。二一世紀に入り大きな転換点を迎えつつも、今なお私たちの身体/家族/制度/知を規定し続ける、二〇世紀型大衆社会の本質に迫る。
目次
序論 二〇世紀社会への視点
1 社会衛生学の誕生―世紀転換期の新しい知
2 社会国家の制度化―社会衛生学とヴァイマル期の人口問題
3 人口・家族政策と優生学―ヴァイマル社会からナチ社会へ
4 ナチ社会の制度的基盤―第三帝国下の保健所と専門家集団
結び 社会国家のゆくえ
著者等紹介
川越修[カワゴエオサム]
1947年生まれ。現在、同志社大学経済学部教授。専攻、近代社会史・経済史
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感想・レビュー
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Mealla0v0
4
20世紀初頭に社会変動に対応する形で登場した社会衛生学という新たな知をめぐる言説の編成変化を丹念に辿りつつ、それが社会国家という制度に結実し、やがてそれがナチスとどう関係を切り結んでいったかが探求されている。ただし、社会衛生学をすべてナチスに収斂されるような議論ではない。むしろ、それは公衆衛生の誕生、WWI後の人口問題などの文脈から登場し、人口の量が問題にされた一方で、人口の質を問題とする優生学の言説があり、前者がナチス期において自らの言説を調整・融和させることで後者のなかで存続しようとした。2020/08/18
フクロウ
1
社会国家思想はヴァイマル期からナチ体制を経て戦後分割統治そしてドイツ民主共和国での統一まで一貫して生きており、ナチズムは極端ではあったが社会国家の範疇にはある。その意味で優生学が戦後しばらく生き残ったのは理解できる。/歴史を現在の問題を理解する、あるいは解決するための手がかり、対話先として紐解くという手法の明示もなされていた。2022/05/07