出版社内容情報
ふたたび「古典の中の古典」と出会う――ギリシア語原典に忠実であることを目指した新鮮な訳文が,新約聖書の魅力と謎とに新しい光を投げる.読みの道しるべとして脚注や挿図を付した,画期的な日本語訳の登場.
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
きゃんたか
23
異邦人宣教の泰斗パウロは、キリストにあって自由とされた僕の身分に相応しく(甚だしき逆説!)、状況に応じて縦横無尽に、一貫した十字架のキリストを語る。この世の自由を恣にしようとする霊的熱狂主義者に対しては今ある肉体の愚かさを、割礼と律法の遵守を強要するユダヤ主義者に対してはただキリストに頼って生きる信仰義認を、キリストを捨てたユダヤ人に対しては彼らの思いをも超えて成就されずには止まない神の約束の不変性を、という風に。信じるという一事がいかに幽玄微妙なものか。その為いかに多くの誤解と歪曲に曝されてきたことか。2017/04/25
ぽんくまそ
13
共観福音書は好きで馴染んでいたが、ヨハネ福音書や、直弟子でもないのに独特な神学を語るパウロは気に入らなかった。そこへ非暴力を貫く哲学が必要なので参考でM.L.キング牧師による非暴力抵抗運動の本を読み、脅迫に屈しなかった彼の芯の強さとなったキリスト教信仰は決して侮れないと思った。新約聖書全部を読もう。そこで使徒行伝を読み、避けていたパウロの手紙を読み直したというわけだ。手紙から見えるパウロ。人間である。怒り苛立ち自負もあり弱さを告白し心配し感謝し信念と情熱のみで動く。たとえこの肉が滅びてもこの霊は滅びぬと。2022/09/18
一郎二郎
3
罪は死により人間を支配している[ロ]。律法はキリストへ至るために私達を罪のもとに閉じ込めた[ガ]。十字架のキリスト。(死の死。)完成なものが到来する時、部分的なものは壊される。知恵は壊され、信仰、希望、愛が残る。我々が蒔くものも身体も、死ななければ、生かされない[コ1]。死ぬべき肉においてイエスの生命が明らかにされることを欲した神。よって我々は土の器に神の卓越を持つ。我々は見ることの出来ないもの=永遠に目を注ぐ[コ2]。そして後ろを忘れ、前のものへと身を伸ばしつつ、目標目指して、追い求める[フィリピ]。2023/03/23
yuui02
2
解説より。「パウロはキリスト教をユダヤ人の粋を越えて世界的な宗教に世界的な宗教にしてく端緒を開いた伝道者」「パウロの信仰義認論は人は律法の行いによってではなく、キリストを信じる信仰によってのみ義とされると理解されているが、不信心で神なき者を義とする方としての神を受容するという意味での信仰こそが人を義とする」パウロは律法それ自体を否定した訳ではなく、律法それ自体は聖いものであるとしている。2016/04/14
あとがき
1
信仰義認や神への隷従、弱さこそ力であることなど、パウロの信仰論はときに逆説的でありながら徹底的で、キリスト者のみならずあらゆる信仰者を奮い立たせるような深みと力強さを持っている。一伝導者の手紙であって教典として書かれたものではないが、驚くべき密度の思想であり、パウロ書簡を聖典に組み入れた初期キリスト教会の判断は極めて正しい。2024/03/04