読書という航海の本棚＞英文学 - 紀伊國屋書店ウェブストア｜オンライン書店

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本書は1949年に初めて刊行された著者の「デビュー作」（表紙）だ。学生時代に読んでおくべき英文学者の記念碑的作品を、今頃になって読み終わった。失われた過去には戻れないが、幸い、仕事時間が減った今、「水を得た魚」の勢いで時の流れを遡る読書の端緒としたい。
　数年前の同窓会で「余生は学生として生きる」と豪語したように、学び直しを目に見える形で実践するために立案した具体的な読書計画の一つでもある。「英文学概論」の最初の授業のような位置づけだ。
　著者は、自分の嗜好で恣意的に選んだ作品を、原文を随所で引用しながら、その魅力や作者の心情も分かりやすく解説している。『嵐』のプロスぺロは、シェイクスピアの分身であるとの断定は、熟読した際にも気づかなかった見解である。「歌も美しい」との指摘からは、戯曲は音読すべき文学であると、改めて諭された。
　約500年にわたる英文学の変遷に焦点を当ててはいるが、所謂「英国文学史」ではないので、言及から漏れた有名な作家や作品も多い。しかしながら、詩作の技法ばかりでなく、文学の背景となる歴史や風土への視点もあり、限られた内容だが、紹介された詩や長編小説が、書かれた時代や当時の人々の心情を生き生きと描き写す様が描かれており、「文学」の意義が再確認できる展開となっている。
　例えば、Paradise　Lost（『失楽園』）のジョン・ミルトンについての「…詩人になることを一生の目的にして、…彼は大学で古典文学を専攻して毎日、12時間を読書に過ごし…」という件は、戒めのごとく響いた。ひたむきに活字を追う時間が、詩心を醸成させるのだろう。ミルトンの真摯な姿勢を知ったからには、この長編叙事詩を丁寧に読み込んでいこうと決意を新たにした次第である。
　これに限らず、未読の英国作家の小説や詩を、元気でいられる限り、一つ一つ読み進めていくつもりである。著者が滞在中に強く印象づけられた「英国の季節における夏の美と冬の醜」との対比を、イギリス人の作家達は、どのように英語で表現しているのかを確認するようにとの課題を与えられたからだ。
　もうしばらくは、除籍を気にすることなく、呑気に学生気分を満喫できそうだ。

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