内容説明
一気読み必至! 江戸時代最大の裁判劇!!
その一行六人が神田橋本町の公事宿・秩父屋に着いたのは、雪まじりの北風が吹きすさぶ宝暦五年(1755)の真冬のことだった。数日降り続いた雪で道はぬかるみ、六人の草鞋も革足袋も泥にまみれていた。二日目の明け方に宿を出た六人は、闇が降りてようやく武家一人と足軽らに連れられ、宿に戻ってきた。武家は老中・酒井忠寄の家中を名乗り、六人が登城途中の老中の駕籠へ直訴に及んだことを告げた。
明朝、秩父屋の主人・半七は、武家の指示どおり訴願主二名をともない、神田橋門内の庄内藩酒井家へ向かった。美濃国郡上からやって来たという一行は、藩が出す通行手形も持たず、勝手に領外へ出てきていた。それだけでも罪となる。その上の越訴となれば、一行は酒井藩の調べの後、町奉行所へ身柄を引き渡され、そのまま牢屋に拘引されるものと思われた。だが、半七の案に相違して、酒井家は訴願主の二人を薄縁の敷かれた十二畳の間に、丁重に招き入れた。
いったい彼らは、何を訴えたのか?手に汗握る展開に、一気読み必至!
人の値打ちとは?生きる意味とは?その根源的な問いを投げかけながら、歴史小説の巨人が圧倒的な筆力で書き下ろした、江戸時代最大の裁判劇!
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ドワンゴの提供する「読書メーター」によるものです。
パトラッシュ
135
橋本忍脚本の映画『切腹』を観ている気分になる。武士道など虚飾でしかなくなった江戸後期、公事宿という幕府の訴訟に深くかかわる場を視点に、藩の面目と栄達しか考えない大名に対し、苛政に苦しむ百姓が決して諦めず戦い続ける郡上一揆の群像劇に圧倒される。自らの権力と強欲に何の疑いも抱かない老中や大名が、うるさい蠅程度としか思わなかった騒動が歴史に残る大裁判で失脚していく有様はある意味痛快だが、一方で多くの訴人も獄死や死刑に処される。幕府の権威を守るためには大量の死も躊躇しない政治の容赦のなさ、冷酷さが重厚に描かれる。2026/03/26
いつでも母さん
129
江戸時代の郡上一揆における実録裁判記録・・そんな感じの本作。初の飯嶋さんを堪能した。とは言うものの登場人物の多さ(しかも名前が似てるから汗)と立場等、行きつ戻りつの読書で時間を要する情けなさ。公事宿の主・半七目線で読んだ私。駕籠訴人の喜四郎や善右衛門の崇高さに肩入れして、郡上藩への怒りに拳が熱い。幕府のやっぱりねの顛末に涙と情けなさで憤るが、今この社会に於いて手も上げず歩も進めない私に語る資格はないと独り言ちる。2026/04/05
もりくに
61
長い時間を掛けて、緻密で重量感のある歴史小説を世に問うている飯島和一さんには珍しく、昨年の「南海王国記」に続いての作品だが、作品の密度、熱量は全く変わらない。本作は宝暦の郡上一揆を描いた作品。一揆の経過は背景に退き、訴え後の「評定」が緊迫感のある筆で描かれる。(薄味の時代劇しか思い浮かばない者には、「えー」という感じ。)その一行が「公事」宿・秩父屋に着いたのが、宝暦五年(1755)11月24日。話は亭主の半七の語りで進む。翌早朝、水音に気付いた半七は、彼らの「水垢離」に仰天。そして彼らは老中に「駕籠訴」。2026/04/06
がらくたどん
51
流石の逸品!多くの百姓一揆が当事者である農民と援護者である知識人が中央政権に鎮圧されて終わる中で、農民代表による訴訟に始まる宝暦郡上一揆は4年の裁判を経て訴主農民だけでなくその圧政を訴えられた藩主から幕府の首脳陣までが処分を受ける事態となった稀有な事件。その顛末を農民階級の知識・教養への目覚めやコメ本位制が貨幣経済へ転換される社会的な潮流を絡めつつ硬質な法廷ミステリーの面持ちで描き出す。お上の思惑に臆せず流されず冷徹に「証」を積む。知恵と福徳をもたらす虚空蔵菩薩に恥じぬ生き方を希求した人々の姿が静かに熱い2026/04/19
てつ
22
間違いなくこの一年のベスト。時代小説ではあるが紛れもない裁判記録である。どう読むかは読者次第。白山信仰の篤い郡上での苛政に対抗し江戸で越訴した面々をはじめとして、権力に苦しむ農民の生き様を淡々と熱のこもったきれいな言葉で綴る。視点は公事宿の半七。史料も現代語訳で記される。私はわかりやすい裁判記録を読んだ印象だが、農民たちの静かな怒りが妙に美しく読後感は良くないにしろ、いい本を読んだ。法律に携わる人だけでなくたくさんの人に是非読んで欲しいと思う。個人的には、『こつなぎ物語』に比肩する、名作。2026/03/28
-
- 電子書籍
- 火ノ丸相撲 28 ジャンプコミックスD…




