内容説明
評価は組織をどう変えるのか――。公的機関で一般的となった業績評価は、組織や人々に何をもたらしているのか。公共図書館を対象とした質的・量的分析をもとに、「評価影響」の理論を用いて評価の実態を明らかにし、評価の有効性を向上させる方策を提示する。
■ まえがき(抜粋) ■
今日の公的機関では、様々な形で評価が実施されている。日本では1990年代後半以降、ニュー・パブリック・マネジメント(New Public Management: NPM)の潮流のもとで評価が普及し、中央府省、自治体、独立行政法人、教育機関等で相次いで評価が導入された。その多くは、あらかじめ指標・目標を設定して行う業績測定と呼ばれるタイプの評価である。
では、そうして導入された評価は、果たして有効に機能しているのだろうか。施策の見直しやアカウンタビリティ確保など、評価に期待された効果は発現しているのだろうか。この問いに対する大方の答えは、消極的なものになるのではないかと予想される。評価疲れという言葉が端的に示すように、評価は定着したものの、その負担感に比して期待する効果を発揮していないという印象を持たれているのではないだろうか。つまり、評価は望ましいものとして多くの組織に導入されたものの、その期待と実態にはギャップが存在することになる。
しかし、実は私達は、評価を導入した組織内で何が起こっているかについて、十分な知見を持ち合わせていない。評価はどのように実施され、組織や人々にいかなる影響を与えているのか。評価は本当に上手くいっていないのか。上手くいっていないとしたら、それはなぜか。評価のどういった側面に改善の余地があるのか。こうした点を明らかにするためには、評価を実施する組織内部に立ち入った詳細な分析が必要と考えられる。すなわち、評価が有効に機能するためには、まず評価が実施され、それが何らかの形で利用され、当該組織・関係者に影響をもたらすプロセスがあるはずである。もし評価が有効に機能していないとすれば、そのプロセスのどこかに隘路があり、機能発揮に至っていないためと考えられる。そうした組織内部の実態を明らかにすることは、評価実務を見直し、評価を改善する取組につながりうる。
本書では、そうした問題意識のもと、「評価利用」(evaluation use)や「評価影響」(evaluation influence)の理論を用いて評価の実証分析を行った。
<中略><; br> 分析の対象としては、公共図書館を取り上げた。図書館という領域は、業績測定を中心とした「図書館評価」に古くから取り組んできた歴史を持ち、評価に用いる統計の整備も進んでいる。日本では図書館法によって公共図書館における評価実施が努力義務とされていることから、設置自治体が行う行政評価とは別に、独自に詳細な自己評価を行う公共図書館が存在する。こうした背景を持ち、組織規模も比較的小さい公共図書館を分析対象とすることで、評価が組織やその内部に与える影響の一例を明らかにできると考えた。
本書では公共図書館を対象としたことから、図書館情報学の知見に依拠した部分もあるが、分析に用いた理論枠組みは他の公的機関においても適用可能と考えられる。また、本書では評価の正の側面に焦点を当てる形で分析を行ったが、評価の負の側面など、別の角度からの実証研究も必要と考えられる。今後、様々な組織・文脈における評価影響が研究され、評価の有効性向上につながる知見が蓄積されることが望まれる。本書がその契機となれば幸いである。
目次
まえがき
第1章 序論
1.1 研究の背景
1.2 研究の目的
1.3 研究の方法
1.4 先行研究
1.5 図書館評価の現状
1.6 用語の定義
1.7 本研究の構成
第2章 行政評価と図書館評価の比較
2.1 本章の目的と方法
2.2 行政評価の方法
2.3 海外における図書館評価の方法
2.4 日本における図書館評価の方法
2.5 評価用語の整理
2.6 本章のまとめ
第3章 図書館評価モデルの作成
3.1 本章の目的と方法
3.2 評価利用の理論
3.3 評価影響の理論
3.4 非利用と正当化利用の理論
3.5 業績情報の利用の理論
3.6 図書館評価の有効性や利用に関する研究
3.7 図書館評価モデルの作成
3.8 本章のまとめ
第4章 図書館評価の有効性に関する質的分析
4.1 本章の目的と方法
4.2 調査の概要とデータ
4.3 評価影響の発現状況
4.4 評価影響の発現経路
4.5 評価影響の発現に影響する要因
4.6 指定管理者制度のもとでの評価
4.7 図書館評価モデルの精緻化と考察
4.8 本章のまとめ
第5章 図書館評価の有効性に関する量的分析
5.1 本章の目的と方法
5.2 調査の概要とデータ
5.3 有効性の発現状況
5.4 有効性の発現経路
5.5 考察
5.6 本章のまとめ
第6章 図書館評価の有効性に影響する要因
6.1 本章の目的と方法
6.2 影響要因の候補
6.3 データ
6.4 組織レベルの分析結果
6.5 職員レベルの分析結果
6.6 考察
6.7 本章のまとめ
第7章 図書館評価の有効性向上のためのツール
7.1 本章の目的と方法
7.2 有効性向上ツールの作成
7.3 ツールの試行と修正
7.4 考察
7.5 本章のまとめ
第8章 結論
8.1 研究の総括
8.2 図書館評価の有効性
8.3 有効性を向上させる方策
8.4 今後の研究上の課題
8.5 結び
付録
付録1 インタビュー調査・事例概要
付録2 アンケート調査票
付録3 パス解析結果(改善ルート)
付録4 影響要因と質問の対応表
付録5 回帰分析結果(組織レベル)
付録6 回帰分析結果(職員レベル)
付録7 影響要因の分析結果一覧
参考文献
初出一覧
あとがき
索引
感想・レビュー
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