内容説明
『黄泥街』で話題沸騰、残雪の不思議な世界
「彼」を探して彷徨い歩く女の心象風景を超現実的な手法で描いた表題作ほか、夢の不思議さを綴る夜の語り手、残雪の初期短篇を集成。
夢の不思議さを綴る夜の語り手、初期短篇集
わたしは駅の古いベンチに横になっていた。わたしにはわかっている、カッコウがそっと三度鳴きさえすれば、すぐにも彼に逢えるのだ。「カッコウはもうじき鳴く」とひとりの老人がわたしに告げた……。姿を消した“彼”を探して彷徨い歩く女の心象風景を超現実的な手法で描いた表題作。毎夜、部屋に飛び込んできて乱暴狼藉をはたらく老婆の目的は、昔、女山師に巻き上げられた魔法の靴を探すことだった……「刺昻靴および袁四ばあさんの煩悩」ほか、全九篇を収録。『黄泥街』(Uブックス既刊)が大きな話題を呼んだ現代中国作家、残雪の独特の文学世界が最も特徴的にあらわれた初期短篇を精選。夢の不思議さにも似た鮮烈なイメージと特異な言語感覚で、残雪ファンにとりわけ人気の高い一冊。付録として、訳者による作品精読の試み「残雪―夜の語り手」を併録した。
[目次]
阿梅、ある太陽の日の愁い
霧
雄牛
カッコウが鳴くあの一瞬
曠野の中
刺昻靴および袁四ばあさんの煩悩
天国の対話
素性の知れないふたり
毒蛇を飼う者
あとがき
残雪―夜の語り手 「曠野の中」を読む 近藤直子
[原題]布谷鳥叫的那一瞬間
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ドワンゴの提供する「読書メーター」によるものです。
buchipanda3
100
短篇集。これは不思議な読書体験だった。文章自体は難解ではないが、読み進めるうちにどこに向かっているのか分からなくなり、むしろ着地点を探そうとするのが不自然に思えてくる。その湿った咳のような不穏な語りや唐突にギョッとなる詩的描写にただ身を任せ、浮かび上がる剥き出しの情景を味わう。それこそ無為、そして夜の夢の混沌。それが妙にクセになる(いい意味で)。隣人が塀のあの穴を火かき棒でひたすら突く姿があれば、霧が太陽も含む全てのものに長いうぶ毛を生やし、雄牛の背中は紫の光で映えながら呻吟して進む。そう、目と鼻の先で。2023/09/26
かんやん
29
短編集。言葉はイメージを結ばず、結んだとしても、すぐ次の言葉によって儚く打ち消されてゆく。脈絡もなく、整合性もなく、気ままに紡がれてゆく言葉。とっかかりがなく、視線が字面の上辺をスラスラ滑ってゆく。それが快感という向きもあろうが、自分は何度でも立ち止まるような体験を選ぶ。どうやら期待しすぎてしまったようだ。この作家はいくらでも言葉を増殖させてゆくことができるのだろう。そりゃ脈絡も整合性もなければ、可能だ。そのせいで緊張感も迫るものもなく、弛緩している。単に私が苦手なタイプの作家なのかもしれないが。2020/10/03
YO)))
29
もの凄い。例えば『服の中身は絶対に母ではなかった。確か母はでっぷり太っていたはずだし』の次の頁で『母のふわりと軽い痩せた身体を引き起こ』す(「霧」)。時間、事物・他者、自己…あらゆるものの連続の不在の中で、都度生起して現前する今・ココ、コレ・カレ、わたし…の、その連続。 読むこと・読み得ないことの不安が、そのままこの世界を見て取ることの不安でもあるような底知れなさ。にも増して、そのような世界の在り方の中にあることへの(ある種の)安定・安寧、の予感のようなもの、が感じられてしまうことの、心地よい恐ろしさ。2019/07/20
erierif
15
語られない、説明のない記号のように簡素でいつかどこかで見た夢のような小説。悪夢といっても良い不穏と不条理の世界。文革のまさに悪夢がこめられているはずだがどこかこのぐずぐずの世界を知っている。日常の悪習、冷淡、冷酷、人々はみなのっぺらぼうのように匿名になり生きる不浄をたれ流しそのまま腐敗し破滅する。生まれた瞬間から人は滅びにむかっていくのだなあと、いっそ清々しく感じる。成長などだいそれた事などなくただ腐敗して醜く消失するのだ。あのカッコウの鳴く一瞬を除いて。2019/07/20
ぞしま
11
いくつかの短編(表題作、阿梅、天国の対話)にはっとしたが、あまりのめり込んで読むことができなかった。やはり積んでいる『魂の城 カフカ解読』(良いタイトル!)を読まなくてはならぬ。感想ではない。2019/10/23
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