内容説明
連邦議会襲撃に至る20年間の軌跡
2013年、米主要紙誌の特派員として十年に及ぶ海外生活から帰国した著者は、熟知していたはずの祖国アメリカが大きく変貌してしまったことに驚愕した。自分が浦島太郎になったかのような感覚を覚えるほどに、そこかしこで変化が起きていたのだ。その変化をもたらしたものは何なのか。トランプを大統領にまで押し上げたうねりの源はどこにあるのか。混沌の中から何か新しいものが生み出されようとしているのか。それを突き止めようと取材を開始する。
著者は、自分の人生で大きな関わりを持つ三つの場所(コネティカット州グリニッジ、ウェストヴァージニア州クラークスバーグ、イリノイ州シカゴ)を再訪する。取材対象は医師からヘッジファンド業界に転身するもインサイダー取引で犯罪者になったかつてのエリートに始まり、兵役を終えて帰国するも精神を病み殺人を犯してしまう元海兵隊員まで多岐に及んだ。彼らの人生の軌跡をたどることで、アメリカに「分断」や「怒り」をもたらした生々しい現実が浮き彫りになる。
「トランプ再来」に揺れるアメリカを理解するうえで重要な視座を提供する傑作ノンフィクション。
[目次]
11 自由のにおいがする
12 眠りから目覚めて
13 マシーンの解体
14 戦闘思考
15 過激な自立志向
16 事実のかたまり
17 抗体
18 顔なき者
19 父さん、ぼくたち刑務所に行くの?
20 燃えさかる炎
21 この大地を見つめよ
謝辞
訳者あとがき
情報源についての解説
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ドワンゴの提供する「読書メーター」によるものです。
パトラッシュ
106
(承前)荒野と化したアメリカで負け組にいると自覚した国民の怒りがトランプ政権を生んだが、原理主義的政策を要求するトランプ支持者と同様に反対派も自分たちの主張を一方的に貫徹するようになった。様々な思想信条の存在を認めた上で妥協や説得を行うのが民主主義のはずだが、その機能を政治が停止してしまったのだ。暴力との親和性が高いアメリカ社会にあって、防波堤となってきた政治が自らの利益のため率先して分断を煽る状況は正気とは思えない。次の選挙でトランプとハリスどちらが勝とうとも、敗者が結果を認めず内乱に陥る恐怖を感じる。2024/08/03
HANA
59
アメリカの断絶をテーマにしたノンフィクション。本巻ではいよいよトランプ当選からコロナを経て議事堂襲撃事件まで。そのためか上巻のような貧富の差は影を潜め、革新対保守という構図になっている。ただコレ明らかに著者はリベラルで、トランプを批判する立場から書いてるよなあ。保守の立場の市井の人間も登場するが、文脈から批判的なトーンばかりが感じられるし。断絶をテーマにした本で、一方の立場からだけ書くのはどうかと思ったりするが、そういう意味で本書はまさに何者からも逃れられないアメリカの断絶を表した一冊だと言えよう。2024/08/26
穀雨
8
いよいよトランプ大統領誕生。「トランプの思考を理解しようとすることは、競走馬に走る理由を尋ねるようなものだ」という言葉には、うまいことを言うと笑ってしまった。アメリカ社会の分断を克服しようとする草の根の運動が各地で盛り上がっていることに希望を見出して本書は締めくくられているが、ことしの大統領選挙でもトランプ優勢が伝えられていることもあり、まだまだ楽観はできないだろう。2024/06/27
お抹茶
2
トランプ大統領の登場,コロナ禍,連邦議会議事堂襲撃事件とエポックメーキングなできことが続く。その前から,人種問題,銃・環境規制の対立は深かった。ウェストヴァージニア州の炭鉱業界は規制強化を経済や健康のイエスかノーかの自らのアイデンティティに対する信認の論争に転換した。全米で最も連邦政府への依存度が高い州なのに,強い気概と独立心というストーリーに誇りを抱いていた。南北戦争の頃から,アメリカの政治文化は理性と暴力の対立。真実を完全に拒否する姿勢に慣れていっている。2024/11/15




