内容説明
災害により甚大な被害を受けた地にボランティアとして訪れた女性二人組。宿の娘は、生涯独身を貫いた伯父の遺品であるミニチュアの文机と本が入れられたボトルを彼女たちに見せる。ボトルの中の本の開けない頁に記されているはずの言葉をみつけるため、三人は伯父が少年時代の夏の追憶を綴ったノートから、隠された秘密を探っていく――表題作ほか、通り魔殺人が連続して起きている北の果ての町で、アパートの隣室同士になった孤独な男女の交流が思わぬ展開を遂げる「地の涯て(ランズ・エンド)」など五編を収録する。〈七海学園シリーズ〉の名手が満を持して贈る、技巧と叙情が紡ぐミステリ短編集。/【目次】刹那の夏/魔法のエプロン/千夜行/わたしとわたしの妹/地の涯て(ランズ・エンド)
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ドワンゴの提供する「読書メーター」によるものです。
パトラッシュ
176
押し付けられた不条理に必死で抗う悲劇を描く作品は数あるが、まして子供なら痛ましさは深まる。大人から精神的肉体的な暴力を振るわれても、小さなプライドや大切な人を守るため暴走してしまう瞬間は辛く哀しい。しかも原因は婚約者や親、親戚など最も親しい関係にあるべきはずの人であり、誰にも相談できず我慢して心を押し殺すしかないのだ。しかも傷口は容易には癒えず、いつまでも痛みと苦しみを抱えるのを強要するのだから。そんな子が成長してもまともな人生を送れないのは誰の罪なのかを問う、ミステリの技巧を尽くして描き出す短編揃いだ。2026/03/07
しんたろー
122
七河さん約10年ぶりの新作は、5つの短編集…『七つの海を~』シリーズのような青春ミステリと趣が代わって、重めで暗くビターな味付けが並んでいた。うろ覚えだった作風ではなかったが、読み進めると「やはり、七河さんだ」と思える心情描写に惹き込まれた。その上、ミステリとしての面白さもキチンと織り込んであるので(アナグラムや回文は苦手なので、サラッと読み過ごしてしまったが...苦笑)、どの話も充分に楽しめた。特に気に入ったのは表題作…切なくキュンとする青春物語とミステリの融合が上手く、著者らしい作品と思える名短編👍2026/01/09
タックン
106
短編集。やはり表題作の(刹那の夏)が印象に残った。 読んでて途中まで淡い恋心を抱いた青春小説とかと思ってたが、震災の津波をモチーフにしてそんな事件がおきるとは思ってなった。 ただ伏線から女性2人の名推理はやや強引な気がしてわかりずらかった。 日本の地方の網元とか元地主とかの跡取り問題が影をさしてる作品でもあった。2025/12/18
buchipanda3
102
「あなたとわたし、共に堕ちていきましょう」。著者、久しぶりの作品。最近そういうのが続いて嬉しい。意味ありげな冒頭の詩や少年と少女の物語の雰囲気にらしさを思い出した。そして言葉仕掛けのこだわりの遊び心にも。表と裏、光と影、表の影に隠れていた真実のコントラストと物語が残す不穏めいた余情が印象深い。表題作と「千夜行」はゴシックを感じた。古風な世界観に訪れる刹那の劇的破綻が現実と幻想の境目を見失わせてしまうような心持ちに。子供を描いた二篇は無垢さの酷がグサりと。最後の篇はさらりとした物憂げな旋律だが聴き味がいい。2025/12/03
ちょろこ
88
せつなさ残る一冊。5つのミステリ短編集はせつなさ、淡い幻想に包まれた独特の世界観がいい。表題作「刹那の夏」は秀逸。遺品のボトルの中に入れられたミニチュアの本に記された言葉。そこから先に繋がるであろう言葉と隠された秘密を手繰り寄せる時間はギュッと心とらえて離さない。ずっと見つけて欲しかったかのように漂い続けていた過去と秘密。憶測とはいえ、"あの時"の真相の波がどっと押し寄せる描き方、この年代だからこその感情には呑み込まれそうになった。そして波が一気に引いた後に残るのはせつなさ、淋しさ一滴。こういうの、好き。2026/04/06




