内容説明
自身を産んだ際に植物状態になった母親へ会いに病室へ通う美桜。意思もなく、大人に成長していくなかで、次第に親子の関係性も変化していき─唯一無二の母と娘のありようを描く。第36回三島由紀夫賞受賞作。《解説・河野真太郎》
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ドワンゴの提供する「読書メーター」によるものです。
ナミのママ
81
母の記憶がある、それは美しいだけではないが相互の感情を伴うものだ。この作品に登場する母子の形にはそれがない。26年前「わたし」を出産する時に母は植物状態となった。わたしにとっての母は病院のベッドの上、語らない存在だ。それでも生きている、反応もある。そしてわたしの成長と共に母子関係は変化していく。わたしにとって母はたしかに存在し大きな影響を与えた人だった。『受け手のいない祈り』で魅了された朝比奈作品、一作目から順に追っている。生きることを改めて考えさせられる作品だった。【第36回三島由紀夫賞】受賞2025/08/23
和尚
36
うまく言葉にならない読後感の物語でした。 物心ついた時から植物状態である母を見つめる娘のミオの視点で、淡々と、でも確かに生々しく、呼吸や病室の気配すら感じ取れるような、体験ができる文章でした。 読み終わって面白かった、というより、すごかった、と思う一作。2025/10/18
いちろく
16
わたしの出産時に母は植物人間になった。幼少期から葬儀までの娘・美桜と母・深雪の交流を描いた内容、と書いてもよいはずだ。母の葬儀の場から始まる物語は、母との交流の回顧へと。各時期時期を切り取った様な娘から母への一方的な語り、読者の立場である私は月日の経過とともに変わっていく娘と母の交流を見守るような感覚だった。読んでいる最中、人は何をもって死となるのだろう? 生となるのだろう? という考えが頭の中から離れなかった。2025/12/30
イシカミハサミ
16
「わたしにとって、母は会いに行く人物だった。」 著者の朝比奈さんは現役の医者。 家族を除けば、 植物状態になってしまった人物を、 長期間にわたって見つめることができる、 唯一といってもいい立場。 そこから見た、家族模様。 娘の成長。 父の逡巡。 母の生と死。 他家族との対比。2025/11/27
バーニング
8
朝比奈秋を読むのはこれで2冊目だが、紛れもない傑作。三島賞受賞は当然の結果だろう。河野真太郎の解説は、朝比奈秋が本作にこめた狙いや複雑性を丁寧に分析していて良い。河野がアジールと名付ける病室の空間は、生と死の狭間にいる人間が唯一生きることを許された場所なのかもしれない。心臓が停止していない限り、生きている者として扱う。それが可能な場所は、制度的にも理念的にも病室でしかありえないという現実をどのように受け止めるべきか。2025/08/26




