内容説明
青年は、あの男と三毒を追って冥土から蘇った!
地獄をも巻き込んだトウ雨龍の空前絶後の生涯はいよいよ結末へ――。
「三毒の克星(天敵)は、死心(あきらめ)じゃとおれは思う」
養父母を失ったうえ、姉すらも守ることができず、悔悟と激しい怒りに苛まれる青年・トウ雨龍。とうとう、その元凶である村の青年幹部・田冲に復讐し、自らも殺人の咎で銃殺刑に処される......。ところが、ようやくたどり着いた冥土で、ひょんなことから功績が認められ、ある条件と引き換えに、再びこの世に舞い戻ることを許される。その条件とは、人間界に逃げ出した三毒の討伐だった――。
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
Sam
43
三毒とは仏教における根本的な三つの煩悩である貪・瞋・癡(とん・じん・ち)を指す(今回初めて知った)。これを題材に採ったのが本作で、著者しか描けないような独創的な作品に仕上がっている。二度生き返る(?)主人公はもちろん個性溢れる登場人物たちも本書の魅力。登場人物たちがどうしようもなく惹かれ合う場面の描写も相変わらず素晴らしい。激動の毛沢東時代が舞台の割にはドラマチックなストーリーではないような気もするけど、所詮人間は三毒を克服することなどできない、共に生きるしかないのだというテーマは描き切ったと思う。2025/08/17
もえ
33
姉の恋人で共産党幹部の田冲を怒りにまかせて殺し、18歳で処刑された佟雨龍は地獄に落ちる。地獄で田冲の体を借りた三毒の瞑蛇が人間界に逃げ出し、雨龍は鬼(ぐい)となって追いかける。物語の荒唐無稽さは下巻で更に加速するが、鬼となった雨龍を応援する和尚や李平や義和犬皮蛋の子である妹子が魅力的で、三毒狩りの世界にどっぷり浸かってしまった。連載を終えた作者の東山彰良氏の寄稿によるとこの物語で描きたかったのは「諦めを悟るための冒険」であるという。諦めきれないことばかりの人生だけど、諦めることで見えてくる世界もあるのだ。2025/08/10
小説好きな施設長
2
冗談混じりでも著者が本作で世界に打って出るという類の発言をしていたが、あながち冗談でもない気もする。というのも、残念ながら日本では本作は売り上げの面では正当な評価は得られないと思うし、リーダビリティの面ではあえて時代と逆行させたのかと訝しがるほど低い、がそれとは対照的に成長物語としての筋道はとことんまっすぐで最後までブレないせいでとことん読み切ってやろうと思わせてくれた。本作では著者の作品では珍しく著者の顔があまり浮かばなかったが全編通して「さぁこの自信作、読み切ってみせろ」と言われているような気がした。2025/07/30