内容説明
宝暦八年、獄門を申し渡された講釈師・馬場文耕。長屋暮らしの文耕は、かつてなぜ刀を捨て、そして獄門に処されることになったのか? 謎に包まれた実在の人物、文耕の生涯を端正な文章と魅力的な登場人物で描き出す。沢木耕太郎、初にして堂々たる時代小説!
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ドワンゴの提供する「読書メーター」によるものです。
starbro
186
沢木 耕太郎は、永年に渡って新作をコンスタントに読んでいる作家です。著者初の歴史小説、最期は獄門となった講釈師、馬場文耕の半生記、資料が少ないなか、見事に3D化しています。歴史エンタメとして充分楽しめました。 https://dot.asahi.com/articles/-/257219?page=12025/07/23
パトラッシュ
160
ノンフィクションの旗手が時代小説とは本を開くのが怖かったが、読んでみれば見事なエンタメとして成立している。馬場文耕の名は郡上一揆絡みで弾圧された講釈師とだけ聞いていたが、元武士である彼を田沼意次の若き日の旧友とする膝を打つ設定で社会の大きな渦に巻き込むドラマを成立させた。現代風に言えば日銭稼ぎのためデタラメ話を喋りまくっていたユーチューバーが、社会の矛盾に目覚めて権力を笠に着た連中を告発する物語か。意次や将軍家重をはじめ周囲の庶民までいい人ばかりなのは疑問だが、思いがけないラスト後の読後感は実に良かった。2025/07/19
はにこ
80
江戸時代の講談師、馬場文耕の話。全く知らない人物の話だったけど、田沼意次など、知っている人物も出てきたので、時代背景を想像しながら読んだ。馬場文耕についてそんなに文献が残っていないらしいのに、こんなに立派な物語になっていてすごい。言論が厳しく制限されている時代に世の中について語った馬場文耕。確かに、ジャーナリストのはしりだなと思う。史実とはおそらく違うであろうラストが良かった。2025/08/31
マカロニ マカロン
48
個人の感想です:B+。現在放送中の大河『べらぼう』で幕府の出版統制に蔦重らが逆らって身上半減とか手鎖といった処分を受けていたが、それより少し早い1758年に幕府の言論統制で「町中引き回し打ち首獄門」になった講談師馬場文耕がいた。連座した貸本屋ら10名も江戸払い等の刑を受けている。軍記物など過去の時代を語る講談から、文耕は同時代の事件やお家騒動、怪談などを語る講談で人気になった。郡上一揆に伴う強訴事件を語り大評判になって死罪となった。文耕を剣豪に仕立てる、沢木さんの「見てきたような嘘?」が冴えて面白かった2025/11/03
kawa
40
江戸中期に活動の講釈師・馬場文耕は芸能の人として日本史上で唯一死罪(打首獄門)を受けた人。その謎と彼の生涯を追う著者初の時代小説。著者の既読作品では、様々な設定の中での「ヒリヒリ」感を楽しませてもらっているのだが、本作では秀逸な活劇シーンと、思わぬ人物との出会いや交流を楽しませてもらった。そちらに目が行き過ぎて、本題の講釈師としての部分は平板な印象になってしまったかも。キーパーソンとして登場の田沼意次と主人公との縁は、山周先生の「栄花物語」を思い出しますね。2025/12/13




