内容説明
信じることの危うさと切実さに痺れる11篇
「なあ、俺と、新しくカルト始めない?」
好きな言葉は「原価いくら?」
現実こそが正しいのだと強く信じる、超・現実主義者の私が、
同級生から、カルト商法を始めようと誘われて――。
世界中の読者を熱狂させる、村田沙耶香の11の短篇+エッセイ。
表題作は2021年シャーリィ・ジャクスン賞(中編小説部門)候補作に選ばれました。
文庫化にあたり、短篇小説「無害ないきもの」「残雪」、エッセイ「いかり」を追加。
書き下ろしエッセイである「書かなかった日記――文庫版によせて」を巻末に収録。
〈収録作〉
「信仰」「生存」「土脉潤起」「彼らの惑星へ帰っていくこと」「カルチャーショック」「気持ちよさという罪」「書かなかった小説」「最後の展覧会」「無害ないきもの」「残雪」「いかり」
単行本 2022年6月 文藝春秋刊
文庫版 2025年5月 文春文庫刊
この電子書籍は文春文庫版を底本としています。
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
小太郎
42
自分としては基本的に村田沙耶香さんはSF作家だと思っています。11篇の短編とエッセイのこの本読んでいても発想は正しくSFだと思えます。日常生活の中の不安や違和感をこんな形で物語に出来るのは素晴らしい。優れた小説を読むと他人と自分の視点の違いが認識出来ます。それと同時に自分の考え方の立ち位置が客観視出来ると思っています。村田さんの小説を読むといつもそんなことを思ってしまいます。この本玉石混交ではあるけれどそんな感じがしました。★42025/06/07
梶
28
この世界が歪んで見え感じられる主人公たちによる短編と、著者エッセイ。世界文学への目配せも感じさせる。「信仰」はカルト商法に「参加する」ことによって、何を本位として生きるか、という軸のずれ自体に着目し、既存の価値観を華麗に転覆させていく。村田さんの作品は無機的な設定や記述がとても読みやすくて、それゆえに登場人物たちが持つ微温的な機微が伝わって来るようだ。久しぶりに読んだが、あっという間に読み終わり、面白く読めた。2025/06/29
Tαkαo Sαito
24
単行本でも読了だが今回の文庫本では新しく3篇追加収録ということで迷わず購入、2回目読了。村田沙耶香さんの小説、唯一無二だなと改めて実感。村田沙耶香さんにしか書けない世界観。すごすぎて面白すぎる。追加3篇も漏れなく良かった。読み終えて、信仰単行本のファイナルミックス版というような感覚に2025/05/18
seba
23
表題作の主人公は「原価いくら?」が口癖の現実主義者。ぼったくりによる搾取から他者を救済するため、現実へと「勧誘」していたのだった。自分の世界というものは、科学、非科学、何に立脚していようと相対的には幻想となりうる。彼女の信じるリアリズムもまた、他者の世界に侵攻するという面では一つのカルトなのかもしれない。また「カルチャーショック」の抽象性は比較的わかりやすい方だったが、結末で「僕」は「均一」という文化の進化のどの点を喜ばしく捉えたのだろうか。異物との接触で誕生したそれは、彼らにとって刹那的なものに過ぎず。2025/07/28
FUKUSUKE
19
複数の文芸雑誌に掲載された十一編の短編や掌編、エッセイを集めた一冊。表題にもなっている「信仰」は宗教的な儀式が描かれていて、どこか地球星人に似ている気がする。その次の「生存」と「土脉潤起」は世界観が近い。「無害な生き物」は地球にとって人間は害悪だと洗脳された人々が滅亡に向かって突き進んでいく様子が描かれているのだが、「信仰」や「生存」にある宗教的な人々の衝動を感じさせる話になっている。見方を変えると、世間一般に普通じゃない人たちを描いているようにも読める。「残雪」と「書かなかった日記」の関係も興味深いね。2025/07/05