内容説明
「あの夏から80年。野坂さんの思いを、私は語り継ぐ」
吉永小百合さん推薦
昭和20年、8月15日――
すべて同じ書き出しで始まるのは、忘れてはならない物語。
空襲下の母子を描く「凧になったお母さん」をはじめ、鎮魂の祈りをこめて綴られた12篇に、沖縄戦の悲劇を伝える「ウミガメと少年」「石のラジオ」を増補した完全版。
野坂昭如没後10年。
【目次】
小さい潜水艦に恋をしたでかすぎるクジラの話
青いオウムと痩せた男の子の話
干からびた象と象使いの話
凧になったお母さん
年老いた雌狼と女の子の話
赤とんぼと、あぶら虫
ソルジャーズ・ファミリー
ぼくの防空壕
八月の風船
馬と兵士
捕虜と女の子
焼跡の、お菓子の木
改版のためのあとがき
沖縄篇
ウミガメと少年
石のラジオ
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ドワンゴの提供する「読書メーター」によるものです。
朗読者
25
哲学書ばかり読んでいてうっかり8月が終わってしまうところだったので、8月らしい作品をということで、野坂さんの戦争童話集を手に取りました。「昭和20年8月15日」との書き出しで始まる14の短編集。ほとんどに動物が登場し、人間との温かい交流が描かれながらも、その人間は戦時の絶望的な環境にあり終戦日まで生き延びたのに、命が尽きてしまう。野坂さんは動物愛と戦争の理不尽さを読者(子どもたち)に伝えたかったのだろう。8月に読めて良かったです。2025/08/20
阿部義彦
19
出たばかり。中公文庫新刊。野坂昭如さんが亡くなってからもう十年も経つのですね。そんな野坂さんが書いた戦争に関する童話です。全ての話が 昭和二十年、八月十五日 から始まります。この中では「凧になったお母さん」が良かった。野坂さんと言うと『蛍の墓』の原作者ばかりが有名で、肝心な本業のいかがわしい短編は多分今は版元品切れや絶版なのかなあ?「エロ事師たち」「受胎旅行」なんか読み返したいのですが。 ソ、ソ、ソクラテスかプラトンか〜!あとおもちゃのチャチャチャの作詞もしてましたよね。シャイな人でした。2025/05/01
マカロニ マカロン
16
個人の感想です:B+。来年(2026)2月の読書会テーマ本。手持ちの本が1980年初版で文字が小さいので、株主優待で頂いたポイントで電子書籍を買ったら、完全版として沖縄編2作が追加掲載されていた。全14篇の戦争童話はほぼ主人公が死んでしまうので、何とも悲しい童話集。人間だけではない、クジラもオウムも象、狼、馬、海ガメもみなそれぞれに思わぬ形で巻き込まれ、人間の起こした戦争の犠牲になってしまう。黒田征太郞さんのイラスト入りの『小さな潜水艦に恋をしたでかすぎるクジラの話』も使って子どもたちに語り継ぎたい本2025/09/16
スローリーダー
3
戦争と童話が結びつかない、作者の芸歴?遍歴を聞くと敬遠しがちということで頭から排除していた本作。読むとそこはまるで異世界。静謐でもの悲しい鎮魂の1945年8月15日だ。童話らしさを演出するためか動物(生物)が人間と深く関わってくる。クジラ、オウム、象、狼、あぶら虫、馬、アオウミガメ等。人間が引き起こした戦争の犠牲になっていく動物たちの悲しい姿を想像するのは辛い。人間は動物に対して詫びねばならない。また本作には作者が戦争を経験した頃の歳の子供が描かれる。彼等も何の罪も無く犠牲になる。やるせない気分になった。2025/07/13
極度乾燥
2
どの話も悲しいけれどどこか美しく感じる。同時に「美しい」と感じてしまうことに、どきっとしてしまった。ただ「悲しくも美しい鎮魂の物語」で片付けてはいけないとも思うけれど、この童話集のヒリヒリするような美しさは、極限の状況で人間性が放つ最後の輝きを描いているからなんだろうと感じた。心に傷を残す本だったけど、読んで良かった。2025/06/06