内容説明
一八七〇年ウィーン、理想の音楽を希求するベルンシュタイン公爵は、音楽を絶対的な快楽に変えるという麻薬〈魔笛〉の流行を知る。ある画期的な技術を売りにした舞踏場との関わりを調査する公爵は、〈魔笛〉と〈音楽機械〉をめぐる謀略の渦中へ……虚実混淆の西欧史を舞台に究極の音楽を幻視したデビュー長篇。
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
田氏
21
これは普仏戦争あたりの時代のヨーロッパを舞台にした小説である。音楽に関わる者なら誰もが一度は夢想するであろう、頭のなかで鳴っている"理想の音楽"の具現化を目指す人々、そこに忍び寄る麻薬の影。さて、まずは巻頭の登場人物一覧を見てほしい。ナポレオンの名前や、公国の君主、楽団の指揮者などの19世紀めいた肩書きが並ぶ中に、【テクノ系DJ】なんでやねんドーーン!!そうですここは産業革命後のイギリスにクラブミュージックと、ついでにメタルとパンクまで前倒しで到来している偽史音楽SFの世界ですいらっしゃいませ!やったー!2019/09/20
Valkyrie
20
音楽SF、読み始めから独特の世界観に慣れるまでに少し時間がかかるけど入り込めると一気に面白くなった。音楽、ドラッグ、ミステリーにスチーム、サイバーパンク要素もありで後半はギブスン作品に「Jack-in」してた頃を思い出す。夢現が入り交じった最高潮のクライマックスから一気に崩壊させる残酷な無常感もなかなかいい。彼らの魂は何度でも生まれ変わるのだ。デビュー作でこれは完成度高いと思う。初めての高野史緒さんだったけど他の作品も読みたい。2022/01/26
橘
20
文章がすっと心に入って来なかったところもありましたが、面白かったです。機械音楽VSブルックナー教授の即興、は聞いてみたいです。音楽を文章で描くのって難しいと思いますが、どんな音楽なのだろうと想像を掻き立てられました。魔笛やイズラフェルのような薬は怖いですね。あとセントルークス卿の装置も。マリアの真相に驚きました。楽しかった。2015/06/21
かとめくん
20
19世紀、異形のヨーロッパで音楽にとりつかれた者たちの物語。求める音楽のためにはテクノロジーとドラッグの融合で体現を試みたり、とにかく何でも利用する。ウイーンフィルの指揮者からクラブのDJへの転身なんて刺激的だ。そして謎のミューズ。究極の音楽機械はすべてを破滅に導くのか。すごい。スチームパンクしてる。面白かった。2015/05/27
波璃子
16
クラシックを題材に歴史も絡めつつミステリーやSFの要素もある。ジャンルを横断する壮大なストーリーに硬質な文体にマッチしており、クラシックやヨーロッパの歴史を詳しく知らなくても楽しめた。「屍者の帝国」っぽいなと思って見ていたら「屍者~」よりだいぶ前の作品だった。デビュー作とのことで驚き。2018/11/18