内容説明
バベルが供給する、銀を用いた魔法によって世界を支配する大英帝国。通訳として広東を訪れたロビンたちは、イギリスが阿片貿易を口実に清朝政府に戦争をしかけ、中国が持つ膨大な銀をわがものにしようとしていることを目の当たりにする。そしてロビンは、後戻りのできないひとつの決断をする。帰国したロビンたちは、戦争を食い止めるべく奔走するが……言語の力を巡る本格ファンタジー。ネビュラ賞、ローカス賞受賞作。
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
yukaring
68
銀を用いて魔法的な力が使える世界。1830年のオックスフォードを舞台に繰り広げられる「言葉の力」をテーマにしたダークファンタジー。異なる言語の意味のズレを使い、銀を媒介にして適合対(マッチペア)を唱える事で発動される魔法。世界中の言語を研究し魔法の開発と銀作りを担う翻訳研究所「バベル」へ言語の才能から送り込まれた中国人の少年ロビンと同期の仲間達の4人。彼らの友情と恩師の抱える秘密、英国が銀の力を独占して行おうとしている許しがたい行為。知ってしまった彼らの苦悩と決断。ダイナミックかつ切ないストーリーだった。2025/06/11
小太郎
50
上巻を読んで続きがすぐに読みたくなったのも久しぶり。ある程度予定調和的なエンディングでは?と予想していたこちらの上をいく怒涛の展開にやられてしましました(笑)これは産業革命後の世界の趨勢を、銀と言葉が魔法の触媒として機能する世界をベースにして展開した歴史改変SF。それも物語の深み、人物の書き込みなど一級品です。特に面倒な翻訳がモチーフの日本語訳はとても大変だったと感じました。ページの横についてる注釈も中々シャレてます。やはりこう言う本に出合えるから読書はやめられない。今年のベスト候補!★4.52025/05/23
tom
30
絶品。私が今年読んだ本の中では軽々とトップスリーにランクイン。銀と翻訳を結びつけ、イギリスの支配層に象徴される権力を抱きしめて放そうとしない輩のしたたかさを描き出す。そして、それに対する抵抗と革命とは何かを語る。「革命が実際のところつねに想像できないものであること」「革命は自分が知っている世界を壊すのだ。未来はまだ書かれておらず可能性にあふれていた」と著者は述べるけれど、何やらすごく恰好いいと思いながら読む。2025/06/07
とも
30
下巻。ラヴェル殺害から坂を転がるような展開。一人また一人離脱、そして裏切り。下巻は政治色が強い。 大枠としてこの話は産業革命時代の英国と支配国の搾取の関係を描いたものだろう。 ロビンやヴィクトワールなど外国人視点から語られる疎外感。英国人であるレティには彼らの根底の考えが理解できない。ダークサイドに堕ちたレティだが彼女には彼女なりの理屈がありまた人間臭くもあり嫌いになれないなあ。 歴史に現代を投影した大人のダークアカデミア小説。2025/05/06
ぽてち
30
下巻に入ると、上巻で語られていた4人の“学生生活”はすっかり消え失せ、清の持つ銀を狙って戦争を仕掛けようとする陰謀が焦点となる。歴史改変ものでもあるため、史実からどこまで外れていくかも読みどころだ。想定外の展開が多かった割には彼らの抵抗の行方は大体想像通りだったけれど、希望を感じさせるエピローグがよかった。全体を通して振り返ると、スチームパンクの世界観に補強として銀と言語(翻訳語)を用いた魔法をかぶせ、魅力的な4人の学生を配置した感じかな。ハリポタほど魔法色は強くなかった。2025/02/24