内容説明
仙界の太白金星に住む李長庚は、観音菩薩の奸計によって天竺へと向かう三蔵法師に八十一の試練を与えることになった。だがそこには、仙界の大物たちが企てる隠された目的が見え隠れしていた。人間界も巻き込んだ壮大な計画の鍵は、孫悟空にあるというが……。
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
たま
75
『両京十五日』が面白かった馬伯庸さん、この本も面白い!西遊記を下敷きに仏教と道教の世界観と用語で溢れるが、馴染のない読者にも自然と分かるように書く技が見事。冴えない?神仙の李が観音と協力し仏教・道教双方のお偉方の意向を汲みつつ玄奘の苦難を用意する。組織(中国共産党でも日本の企業でも)の上層部を忖度しつつ働く中堅社員を思い、応援に力が入る。コネの有無で苦汁を飲まされた悟空、六耳の悲哀、計画された苦難を乗り越えるより民の苦しみに尽くしたい玄奘、最後にある選択をする李のヒューマニズムにそう来たか!と感動した。2025/02/23
おたま
60
『西遊記』は小学生の頃に、初めて読書の面白さを教えてくれた愛読書。『西遊記事変』(原題は『太白金星有点煩』)は、『西遊記』を前提として、その西天取経を目指す玄奘一行の旅を、緻密にプロデュースしフォローする舞台裏の物語。企画・立案・調整に奔走するのが、太白金星=李長庚と観音菩薩。実は太白金星は道教の神仙側の者であり、観音菩薩は仏教の仏である。つまりここで、道教と仏教とがコンビを組んで一行の旅を穏便に進めようとしている。上層部の意向を気にし、下界で起こる様々なトラブルを解決して、旅を進めるが・・・という話。2025/04/07
sin
58
プロレスには筋書きがあると云われるが、西遊記にも何とかのりこえられるくらいの劫難が仕組まれていた?これは“護法”と云い素質のある神仙や凡人に与えられる筋書きらしいが、ここに天界の思惑が絡んでくる。担当を委任された道教の神仙“李長庚”と、仏教の担当者である観音大士はお互いに牽制しあいながらもやがて協調して天界の思惑に対応して三蔵一行を導いて行く訳だが、悟空になれなかった野ザルの精、女癖の悪い天蓬、義憤を持つ金蟾、悟空・八戒・沙悟浄、其々の因縁をも孕んで李長庚はその因果に巻き込まれて東奔西走することになる。2025/04/19
小太郎
53
あの『両京』馬伯庸の西遊記なら面白いだろうと読みました。西遊記はジュブナイル版で読んだだけなので、本編の登場人物やエピソードはよくわかりません(前に読んだ方が数倍面白い筈)がとても楽しめました。まず西遊記と言っても玄奘や孫悟空などが活躍する話ではなく。実は玄奘の旅の途中の艱難辛苦は天上界(仏教系と道教系)でのイベントとして実施されるもので、プロデュースするのが敏腕仙人で主人公の李長庚。仕事は煩雑で膨大な折衝能力が必要、李さんの悪戦苦闘が読ませます。それに単なるエンタメじゃないところも奥が深い。★4.52025/04/19
藤月はな(灯れ松明の火)
53
玄奘法師一行の天竺行の劫難指定とサポートを頼まれてしまった太白金星。西遊記一行が天竺行を無事に終わらせるまで彼に気の休まる時はない。同僚となった観音の報連相なしのちゃっかり依頼に怒りつつも、玄奘の野心と彼の道行を阻もうとする仏弟子の妨害、更には天界の縁故関係や派閥のいざこざが絡む同伴者に頭を抱えるのだから!しかし、世知に長けた彼は事態を丸く、収めようとする。それがある問題への苦い回答になるとも知らず・・・。天界でも事なかれ主義で縁故によって贔屓されてそうじゃない者は割を喰うって『天 官賜福』でもあったな。2025/03/13