内容説明
古今東西の書物が集う墓場にて。
明治の終わり、消えゆくものたちの声が織りなす不滅の物語。
花も盛りの明治40年――高遠彬の紹介で、ひとりの男が書舗「弔堂」を訪れていた。
甲野昇。この名前に憶えがあるものはあるまい。故郷で居場所をなくし、なくしたまま逃げるように東京に出て、印刷造本改良会という会社で漫然と字を書いている。そんな青年である。
出版をめぐる事情は、この数十年で劇的に変わった。鉄道の発展により車内で読書が可能になり、黙読の習慣が生まれた。黙読の定着は読書の愉悦を深くし、読書人口を増やすことに貢献することとなる。本は商材となり、さらに読みやすくどんな文章にもなれる文字を必要とした。どのようにも活きられる文字――活字の誕生である。
そんな活字の種字を作らんと生きる、取り立てて個性もない名もなき男の物語。
夏目漱石、徳富蘇峰、金田一京助、牧野富太郎、そして過去シリーズの主人公も行きかうファン歓喜の最終巻。
残念ですがご所望のご本をお売りすることはできません――。
目次
探書拾玖 活字
探書廿 複製
探書廿壱 蒐集
探書廿弐 永世
探書廿参 黎明
探書廿肆 誕生
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
starbro
195
京極 夏彦は、新作をコンスタントに読んでいる作家です。書楼弔堂シリーズ完結、全四部作、2,000頁強完読しました。 古今東西の書物が集う墓場、書楼弔堂は、北へ向かって消滅したのでしょうか❓ https://lp.shueisha.co.jp/tomuraidou/index.html2024/12/12
Richard Thornburg
90
感想:★★★★ シリーズ第4弾にして最終巻。 これまでに登場した面々を含め、今回も錚々たる面々が顔を揃えます。 今までは書楼弔堂を訪ねてきた人々に対する悩みや後悔に対して、弔堂の主人がそっと案内する書籍やその内容そのものがテーマだったりしたわけなんですが、今回はその書籍を構成する文章・・・さらには文字そのものがテーマになっています。2024/12/27
星落秋風五丈原
79
『活字』今回の有名人訪問客は「大学を辞めて新聞社という錨も付いた。作家という足枷もある」「兎角この世は生き難い」「猫のように生きたい」とヒントがちりばめられている。望んで与えられたわけではない今の職に悩む甲野に「迷ってもいい」とアドバイスする彼は、迷いまくって神経衰弱の気があるが、本編では優しい助言者。『複製』訪問客は岡倉天心で弔堂を本名の龍典呼び。本年大河ドラマに登場する浮世絵が海外に嘘のような価格で流出するのを嘆き、世界美術史の中での位置づけを試みる。2025/02/05
ままこ
79
明治中期から後期。本の黎明期を描いた弔堂シリーズ完結編。今回の語り手は、活字の元を作っている生真面目な甲野。実在の人物たちも絡んでくる。撓はあの植物学者のファンだったんだ。登場シーンは神木隆之介さんで脳内再生。とある事件が弔堂で起きて…。店主らしいこういう幕引きもありかなと思うけど、寂しさもやはり残る。これまで登場したオールキャストが勢揃い。しかし、あの店主は最後まで謎多き人物だった。京極さんの本に纏わる持論が随所に散りばめられ興味深く楽しめた。人の情も深かったこのシリーズらしい大円団の終幕にして誕生。2025/01/23
優希
74
シリーズ完結編なのですね。本を大量生産しようという人の話でした。今までは限られた冊数しか造ることができなかった書籍ですが、大量に造れるようになり、多くの人が手にすることができるようになる時代への変換期の物語と言えると思います。出版物としての本の変化を見たようでした。本好きとしてはこのシリーズが終わってしまうのは寂しいですが、スピンオフなどに期待もしてしまいます。2024/12/18