内容説明
グルメサイトや地図アプリの検索結果をなぞるだけの日常で生は満たされるのか。情報に覆われた現代社会に疑問を抱いた著者は、文明の衣を脱ぎ捨て大地と向き合うために、地図を持たずに日高の山に挑む。だが、百戦錬磨の探検家を待ち受けていたのは、想像を超える恐るべき混沌だった。前代未聞の冒険登山ノンフィクション。
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
サンダーバード@永遠の若者協会・怪鳥
99
(2025-13)【図書館本-10】タイトル通り、地図を持たず、四年間にわたり日高山脈を漂泊した記録。角幡氏によると冒険、探検とはシステムからの離脱であるという。システムとはGPSや衛星電話だけでなく、地図も含まれる。なまじ山登りをする身としては、地図も持たず、事前の登山計画も無い登山と言うのはかなり抵抗がある。だが、渓流で魚を釣り、食料を自給しながら、ピークを目指すことなく自由に探索をする山歩きというのも一度やってみたい気もする。でも素人がこれやったら、即遭難だよなぁ。★★★+2025/01/27
アキ
96
「極夜行」と同じく、システムの外側の旅の実験。地図を持たない山登りをすることで、原始の人間と自然との関係を実感できる。その思索の流れが心地よい。地図を持って旅をするということは予測して計画を立てるということであり、「未来予測こそ人間の基本的な存在基盤なのだ」と思い至る。まさに、それは脳の機能そのものではないか。人間の始原的な行為である移動には、必ず地標・ランドマークが必要である。自然の事物に地標を配することで、それが有機的な存在に変わり、自然とのつながりが生まれるのだ。根源的なことを考えさせてくれる良書。2025/01/21
pohcho
61
まったく土地勘のない山に何もわからない状態で入り、地図を持たずに山の中を彷徨い歩いた旅の記録。魚を釣って火を熾してキャンプしての日々。そこにあるのはありのままの山と自分。2017年から22年にかけて計4回行かれていて、最初の登山は山に圧倒されて終わるが、回を重ねるごとに肩の力が抜けていき、山口君と一緒の3、4回目はなんだか楽しそう。たまに出会う人がすごく親切なのが印象的だった(特に帯広のトヨエツ)やっていることのすごさはもちろんのこと、人に説明するのが難しい状況を面白く読ませる文章力も素晴らしい。 2024/12/17
nonpono
60
地図なき旅?地図があっても大山では登山口がわからなく、尾瀬では地図にない道を歩き、雪渓とともに池に落ちそうになった方向音痴な山好きなわたし。「何年もかけて通いこみ、日向という土地をゼロから獲得していく」目標を挙げた著者。沢を登り、魚を釣り、山に登り、キノコを食べる。何百万円もだせばエベレストが団体ツアー登山で登れちゃう今、逆に新鮮で楽しかった。地図を使わないから自ら、地図を作っていく楽しさがそこにあると思う。いろんな冒険を重ねた著者の経験がところどころに生きているんだ。素晴らしい。あー、山に登りたくなる。2025/02/12
つちのこ
54
沢登りは登山のジャンルの中でも総合力が要求される遊びだ。それだけに危険度は桁違いである。地図からの情報は必要不可欠の要素であり、読図の失敗は命取りになりかねない。私もかつて記録がない未踏の沢を求めて活動してきたが、地図なしの沢登りは考えたこともなかった。未踏の沢では地図と地形を絶えず見比べて遡行図をつけ、滝やゴルジュの位置、高巻きルートを探りながらラインを引いて沢を詰め、稜線や尾根にゴールすることが目的だった。著者がこだわった、沢登りの生命線ともいえる武器である地図という情報を持たない脱システムと、漂泊⇒2024/12/29