内容説明
【第34回鮎川哲也賞、満場一致の受賞作】【デビュー作にして2025年本屋大賞ノミネート!】救急医・武田の元に搬送されてきた、一体の溺死体。その身元不明の遺体「キュウキュウ十二」は、なんと武田と瓜二つであった。彼はなぜ死んだのか、そして自身との関係は何なのか、武田は旧友で医師の城崎と共に調査を始める。しかし鍵を握る人物に会おうとした矢先、相手が密室内で死体となって発見されてしまう。自らのルーツを辿った先にある、思いもよらぬ真相とは――。過去と現在が交錯する、医療×本格ミステリ! 第34回鮎川哲也賞受賞作。/第34回鮎川哲也賞選考経過、選評=青崎有吾 東川篤哉 麻耶雄嵩
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
パトラッシュ
621
祝福されるべき新しい命の誕生に科学という名の人の思惑が絡むと、おぞましい腐臭が漂ってくる。救急医武田が瓜二つの身元不明遺体と対面して、自らの出生にまつわる秘密を探っていくプロセスが息苦しい。旧友医師の城崎と共に調査を進めるにつれて、おぞましい事実が次々と明るみになっていく。そして最悪の真実に対峙した2人は、二重三重に人倫から外れた臭いものに蓋をする決断を下す。待ち望まれた子の誕生に重なる結末は、科学に翻弄された人びとの残酷な悲劇だ。知らなければよかった「真実の子」は、「禁忌の子」となってしまったのだから。2024/11/06
ミカママ
561
これはある意味、タイトルがすでに壮大なネタバレなのだが、ホップステップジャ~~~ンプしたところの着地が見事。もちろん普通に生活している読者からすれば「さすがにそれはないだろう」という点もあるのだが、それをしのぐ著者の知識(現役のドクターだものね。)と筆致力。つくづく読みながら、「わたしも医師になりたかったな」。高校時代の成績、物理3,化学4(10段階)じゃ、やっぱりダメっすかね。2025/05/02
青乃108号
560
どうやら俺の川上未映子病はかなり深刻なようだ。面白いと評判の本作を読んでも、どうにも文章も、話の展開も、テーマも、どれを取ってもピンと来るものがなく、川上作品以外は受け付けない体になってしまったのかも知れない。睡魔と闘いながら何とか読みきったけど、これって面白いんですか?どうなんですか?やっぱり俺の川上病のせい?だとしたらこれは深刻な問題だ。しばらく川上作品から離れた方が良いのではないですか。やっぱりそうですか。しかし手元にまだ3冊ほど未読の川上作品があってですね。ああ川上。川上が読みたい。もっと川上を。2024/12/30
bunmei
505
医師になる為に一度は諦めた作家への道を捨て切れず、医師となった現在、改めて執筆活動を始めた初読み作家さん。作家と医師の二足の草鞋を履きながら、手術や治療シーンでは医療の専門ワードが飛び交いやや難解だが、リアルさと緊迫感も伝わる現場を再現。現役医師だからこそ描ける作風とも言える。本作は不妊治療に纏わるミステリー。日本ではタブーとされて来た卵子提供や代理出産といった出生における不妊治療の現状に、一石を投じている。ラストは、あまりに切ないサプライズの結末の中、一筋の光を感じながらも、標題の本当の意味が染み渡る。2024/12/08
R
420
ある種古めかしいとすら思うような謎を秘めたミステリ小説だった。ミスリードへの突入、その後のスピード感や押し進める強さに、考える暇も与えられずにあっちこっちと話が転換していくのが面白かった。結局そういうことかと思った頃には話は終盤になっていて、そこまで一瞬でもっていかれたみたいな楽しさを味わえた。医療技術としての裏付けがどうかわからないけど、とてもありそうな時代と技術だなという感覚が面白く、そして当時だからこそありえそうだという謎が人間ドラマとしても面白くて凄くよかった。2025/02/22