内容説明
2020年、翻訳者のケヴィンは軽井沢の小さな山荘から、人けのない隣家を見やっていた。親しい隣人だった元外交官夫妻は、前年から姿を消したままだった。能を舞い、嫋やかに着物を着こなす夫人・貴子。ケヴィンはその数奇な半生を、日本語で書き残そうと決意する。失われた「日本」への切ない思慕が溢れる新作長篇。下巻。
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ドワンゴの提供する「読書メーター」によるものです。
どんぐり
84
軽井沢の避暑地で過ごすケヴィンの「失われた日本を求めて」と日系ブラジル人貴子の「日本ごっこ」下巻。カズオ・イシグロの『遠い山なみの光』を読んでいるような読後感(面白くない)。「ぶゑのすあいれす丸」の移民物語が読みたかった、のであるよ。2025/02/04
とよぽん
82
上巻の続きが気になって、予約の順番が巡ってきた日から引き込まれた。貴子の謎が次第に明かされ、日本から「移民」となってブラジルに渡った人々の苦難の歩みが下巻のメインとなる。人種差別、男女差別、国家、貧富、様々な世間の壁や荒波が次から次へと描かれる。そしてケヴィンは貴子の数奇な半生を書き残そうとするが・・・。水村美苗作品を初めて読んだが、この壮大な物語世界に圧倒された。映画化されたら、ぜひ見たい。過去作品も読んでみたいと思う。2025/02/19
天の川
56
ミステリアスな存在だった大使とその妻が語り始める下巻。貴子が地球の裏側で棄民として辛酸を舐めながらも祖国に恋焦がれた人々の祈りを一身に背負っていたことがわかり、貴子=失われた日本の具現であることが腑に落ちた。ケヴィンが彼女に惹かれていった(あくまでも恋情ではない)のも必定。日本は貴子を形づくった人々の祖国であり、貴子の祖国ではなかったのだ。人々の姿が痛々しく哀しい。コロナ禍も夫妻を翻弄する。貴子のことを綴るケヴィンも又、崇拝していた亡兄について見つめ直す。多くの要素を結びつけての構成は見事だと思った。2025/05/09
NAO
51
上巻の古風な貴子の振る舞いと明らかになった出自とはあまりにもギャップがあって驚かされるが、切り離された世界にいたからこそ貴子は純粋培養されたのかもしれない。異国の孤独の中でひたすら日本を思い続けた人々。彼らの思いを一身に受けて育った貴子にとって、日本は思っていたとおりの国だったのだろうか。上巻の幽玄を感じさせるような雰囲気は、下巻のとんでもなくシビアなブラジル移民の世界を際立たせる。こういったことが日本ではほとんど語られることもないとは、いったいどういうことなのだろう。2025/06/21
ケイトKATE
45
ケヴィンは、軽井沢から突如去ってしまった貴子の記憶を書き留めることにした。日系ブラジル人としてブラジルで生まれ育った貴子は、育て親の山根安二郎、八重夫妻と、人生の師匠である北條瑠璃子から日本人としての教養と作法を教え込まれる。下巻では、貴子の半生とブラジルに渡った日本人の苦難の歴史が書かれている。祖国から離れると、どうしても自分の原点を意識せざるを得ない移民の苦悩に心が痛くなった。私は貴子の誠実さに共感しながらも、肩肘張らずに、自分が安心できる居場所を見つけることが大事なのではないかと思った。2025/11/14
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