内容説明
2020年、翻訳者のケヴィンは軽井沢の小さな山荘から、人けのない隣家を見やっていた。親しい隣人だった元外交官夫妻は、前年から姿を消したままだった。能を舞い、嫋やかに着物を着こなす夫人・貴子。ケヴィンはその数奇な半生を、日本語で書き残そうと決意する。失われた「日本」への切ない思慕が溢れる新作長篇。上巻。
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ドワンゴの提供する「読書メーター」によるものです。
とよぽん
86
何紙か書評に載っていたのが気になって、図書館の順番待ちをした。水村美苗さん、初読み。その経歴から、典雅な文体や日本の古典文学、諸外国と日本の歴史的背景など、作品中に散りばめられた気品のようなものが納得できた。前半は様子がつかめず、人物関係も分かるのに時間がかかったが、後半はそれぞれ登場人物が動き出し、関わり合う展開が面白かった。下巻、早く読みたい!2025/02/11
どんぐり
75
アメリカ人ケヴィンの「失われた日本を求めて」とブラジル生まれの貴子の「ニッポンごっこ」。日本文化への遅ればせながらの目覚めは、面白い読みものとは言えないけれど、下巻へ(つづく)。2025/02/01
NAO
57
幼い頃から家族に馴染めず軽井沢と東京の二拠点で孤独な生活を送っているシカゴ生まれの初老のケヴィン・シーアンが、自分の小屋の先に建っていた山荘を改装工事して住み始めた初老の夫婦との付き合いを始める。山荘に住み始めた篠田氏は元大使で南アメリカに滞在していた人物で、妻の貴子は今どきこんな日本人がいるだろうかと思うほど古風で上品な美人だったが、適応障害でパニックに襲われることがあるという。謎めいた貴子だが、上巻ラストで以外な出自が明かされる。2025/06/20
天の川
52
この異次元のような静謐な空間は何だ?母国にも家族にも馴染めなかった高等遊民のケヴィン。日本文化に魅せられ、東京に住み、夏は軽井沢の山荘で「失われた日本を求めて」というアーカイブを作る彼の前に現れた、隣の別荘(彼は「蓬生の宿」とよぶ)の元大使夫妻。彼は失われた古き日本の化身のような大使の妻に惹かれていく(恋情ではない)。美しい言葉使い、和歌や能、笛や鼓…彼の憧れる「失われた日本」の具現者。上巻の最後で「失われた日本」はもはや日本には存在しないことが明かされ、「なるほど!」と思った。下巻の展開が楽しみだ。2025/05/06
ケイトKATE
42
舞台は明らかに現代の日本なのに、古風で懐かしくも感じる小説である。慕っていた亡き兄キリアンの影響で日本に渡り、軽井沢の山荘で暮らしているケヴィン・シーアンは、隣りの日本家屋に住む元外交官篠田周一とその妻貴子と出会う。特に、常に着物を着て、能や茶道など古典的な日本芸術に造詣の深い貴子に惹かれ交流するようになるが、貴子はブラジルで生まれ育った女性だった。水村美苗が書く文章は、静謐であり描写が細やかで美しい。また、文学の知識が豊かで物語に引き込ませる要素が多く、純文学好きにはお勧めの作品である。下巻が楽しみ。2025/11/09




