内容説明
比叡山麓の八瀬に住む人々は帝を守る鬼の子孫だと自らを誇る。里の娘かやは、貴人が囲う美貌の男妾、夜叉丸の世話をするうちに彼の苦しみを知り……(「鬼の里」)。仏道に邁進する私は、煩悩に溺れる者たちに呆れて比叡山を下りた。しかし洛中の六角堂で百日参籠を始めると、蠱惑的な香りの花を手に女が私を惑わせる……(「愚禿」)。嫉妬に劣情、尽きぬ欲望。男女の生き様を炙り出す京都時代短編集。(解説・細谷正充)
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
優希
41
官能の色彩のある時代短編集でした。艶かしい性欲は男女の生き方を炙り出しているように思えます。昔も今も情欲は人間の性として変わらないものですね。2025/06/16
*+:。.もも.。:+*
18
大病されたというエッセイを読んだのでその後を心配していたが内容的にもお元気そうで良かった。官能小説の枠に嵌らない歴史的な短編集。京都を舞台にいろんな時代の男と女のお話。 花房先生!ずっと現役でお願いします。2024/11/30
桜もち 太郎
14
平安から江戸までさまざまな時代の短篇集。史実に沿った作品もあり興味深く読むことができる。なかでも良かったのは「ざこねの夜」だ。京都大原の里で節分の夜に行われる男女がまぐわう物語。性に興味を持ちすぎた15歳の少女の体験が生々しい。淫乱女の一代記、これぞ花房作品といったところだ。「愚禿」も良かった。性欲と煩悩から逃れたいと10歳で得度した29歳の僧侶。百日参籠を心に決め修行するが、毎日自慰に励み煩悩と妄想にまみれてしまう童貞僧侶。最後の3行で「女犯の夢告」の親鸞と明かされる。読みやすく深みのある一冊だった。2024/10/01
なかなか
8
物語のためのエロなんです、必然なんです、なんていう小賢しい言い訳なんぞどこにもない。といってエロのためのエロでは決してない。平安時代、室町時代や江戸時代の、男と女の煩悩と翻弄される運命を描いた6編。抜群にストーリーが面白いし、人物の息づかいまで感じられるのは煩悩をどストレートに表現しているからだろう。特に、官能描写は一人称視点で描かれているもんで、もう。2024/10/07
turtle
6
京、江戸を舞台に歴史上の人物を絡ませながら、そこに官能と人間の業を織り交ぜ、独特の雰囲気を醸し出す短編集。『ざこねの夜』の底抜けな性欲にスパイスを効かせる秀吉、どうしようもない拗らせ男の性欲には『愚禿』親鸞。発熱で寝られず苦しむ夜中に楽しませていただきました。2025/02/09