内容説明
人の心は分かりませんが、 それは虫ですね――。
ときは江戸の中頃、薬種問屋の隠居の子として生まれた藤介は、父が建てた長屋を差配しながら茫洋と暮らしていた。八丁堀にほど近い長屋は治安も悪くなく、店子たちの身持ちも悪くない。ただ、店子の一人、久瀬棠庵は働くどころか家から出ない。年がら年中、夏でも冬でも、ずっと引き籠もっている。
「居るかい」
藤介がたびたび棠庵のもとを訪れるのは、生きてるかどうか確かめるため。そして、長屋のまわりで起こった奇怪な出来事について話すためだった。
祖父の死骸のそばで「私が殺した」と繰り返す孫娘(「馬癇」)、急に妻に近づかなくなり、日に日に衰えていく左官職人(「気癪」)、高級料亭で酒宴を催したあと死んだ四人の男(「脾臓虫」)、子を産めなくなる鍼を打たねば死ぬと言われた武家の娘(「鬼胎」)……
「虫のせいですね」
棠庵の「診断」で事態は動き出す。
「前巷説百物語」に登場する本草学者・久瀬棠庵の若き日を切り取る連作奇譚集。
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
starbro
249
京極 夏彦は、新作をコンスタントに読んでいる作家です。著者30周年なので、続々と新作が出版されます。本書は、「前巷説百物語」に登場する本草学者・久瀬棠庵の若き日を切り取る連作奇譚集、病葉草紙と言うよりも病蟲草紙でした 🐛🐜🐝 人体には、色んな蟲が宿っているのかも知れません。 https://books.bunshun.jp/ud/book/num/97841639186792024/09/25
KAZOO
123
京極さんの新しいシリーズのようで時代探偵小説のような感じでした。江戸の長屋で起きる事件をそこに住んでいる儒者といっていいのかあまり外に出ない人物が解決していきます。ある意味アームチェアデテクティブのような感じいです。しかも本当の解決を明かすと差しさわりがあるので、毎回ある「虫」のせいにしてしまいます。その虫のイラストが面白い感じです。2025/05/14
ちょろこ
121
虫×謎解きの一冊。江戸の長屋を舞台に繰り広げられる、虫は虫でも病の虫騒動謎解きストーリー。長屋の差配人の藤介と店子で引きこもりの久瀬棠庵。噛み合っているのかいないのか、そんな二人の会話によるツボのくすぐりから始まり、棠庵の決めゼリフである「それは虫ですね」で一気に長屋を取り巻く事件の裏側が動き出し、一捻りある着地へ。その謎解きまでの仕上がりに思わずほぉ…っと感嘆の吐息。イラストが可愛い針聞書も初めて見た。庚申待ちといい古くからの虫と信仰、病の結びに感心しちゃう。興味深さと面白さと…もう少し読みたいぐらい。2025/04/13
Richard Thornburg
120
感想:★★★★ さらりと読める8篇の短編からなる短編集です。 百鬼夜行シリーズや巷説百物語シリーズなら「妖怪」に見立てた事件だったりするのだけど、本作ではそれを「虫」の仕業として久瀬棠庵が事件を解決していく。 この久瀬棠庵、なかなかにクセが強くて最初はそのペースについていけなかったりするんですが(笑)2~3話読めばなくてはならない存在になってきます。 棠庵の住む長屋の差配の藤介との掛け合いも軽快で読んでいて楽しくなります。 オススメの一冊です。2024/10/07
☆よいこ
100
因幡町藤左衛門長屋の大家の息子、藤介(とうすけ)は隠居生活で働かない父親に代わり長屋の面倒を見ている。個性的な店子を日々見守っているが、久瀬棠庵(くぜとうあん)は特に変わり者だった。長屋の困り事を、棠庵は「虫」のせいだと言い解決していく▽『針聞書』にでてくる虫たちを題材にした物語。とても京極夏彦らしい物語でした。九州国立博物館のミュージアムショップで『はらのなかのはらっぱで』https://bookmeter.com/books/152059 と一緒に激押しされていた本。2024.8刊2025/05/25