内容説明
ある夜、一冊の本を読み始めた音楽家の女性。その物語では、音楽教師として教えながら、夫との不和を抱えていた若き日の彼女自身の姿が、どこか面影のある少女の目を通じて綴られていた――表題作「小説のように」ほか、孤独に暮らす女性と逃走中の殺人犯との対話が震えるほどの余韻をもたらす「遊離基(フリーラジカル)」や、長じてのち、少女の日の無邪気な行いが回想される「子供の遊び」など、ありふれた人生ががらりと様相を変える瞬間を捉えた十の物語。ノーベル文学賞、国際ブッカー賞受賞の「短篇小説の女王」が魂を込めて書き上げた燦然たる作品集。/【目次】次元/小説のように/ウェンロック・エッジ/深い穴/遊離基(フリーラジカル)/顔/女たち/子供の遊び/木/あまりに幸せ/謝辞/訳者あとがき/創元文芸文庫版訳者あとがき/解説=井上荒野
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
kaoru
79
ノーベル賞作家アリス・マンローの短編集。凄惨な事件を起こした夫の精神に繋がろうとする妻の視点から語られる『次元』、思っても見ない人間に成長した息子に戸惑う母の物語『深い穴』、病に苦しむ女性が強盗に遭遇する『遊離基』などいずれも一筋縄ではいかない人生の深淵を覗く作品ばかり。『小説のように』は著者の体験が綴られているのか。子供の心理を描いたものに秀作が多く『子供の遊び』の静かな残酷さには遥か昔のアメリカでの子供時代が蘇った。『あまりに幸せ』には女性数学者コワレフスカヤの最期の数日が題材。19世紀に活躍した→2024/11/07
まこみや
46
物語は唐突に始まる。しばらく読者はどこに向かうのか予測がつかない。やがて実に自然な形でしかしまさにそこしかない地点で、フラッシュバックによる回想へ繋がっていく。再び「現在」に戻ってきた時、読者は漸く主人公の置かれている、追い詰められた状況が朧げに見えてくる。今度は、どのような形でこの物語を終えるのだろう、と心配になる。最後に誰も予想しないようなラストが提示される。余韻と人間に対する深い洞察を感得させる。シーンの配置と語りの順序の見事さ。長編の内容を緊密な短編に仕上げる手並みも“女王”の名にふさわしい。2024/12/28
Apple
25
全短編をいちど読んでみたのですが、人生の中で生まれる様々な心の動きが言葉になってるというのがすごいような気がしました。本書に限らず、アリス•マンローさんの短編は、何度も繰り返し味わってみたいものだと思いました。ひとつ一つのストーリーもいいのですが、その奥にある著者の人生観みたいなものをこそ、ちょっとずつ読み解いてみたいなあという気になる読書でありました。短編集って、読んでる時はフムフムって思いながら読むのですが、後の方になって最初の方の短編の内容ってほとんど忘れてしまうのです•••。2024/10/08
星落秋風五丈原
24
「次元Dimensions」 宿泊施設で働くドーリーは、母親の介護で、後に夫となる男性と出会う。自分の子供を殺してしまった精神障害のある夫に、カウンセラーには黙って会いに行く。現在パートと、ドーリーの身に起こる出来事の過去パートが交互に登場。彼の言葉からタイトルは取られている。精神疾患があるからとはいえ常にドーリーを抑圧し自分の都合のいいようにしか考えない夫が非常に不快である。早く彼から離れた方がいいのに、なぜ彼女は彼に執着し続けるのか?と読者は思うはずだ。その上で幕切れを読むとドーリーの変化がわかる。 2025/07/16
M H
24
没後に遺族の衝撃的な告白があったマンローの短編集。短編といっても視覚の持ち方は長編のそれに近いかもしれない。認識を一変させる1行であったり、予測のつかない展開で集中力を要し、打ちのめされるような一瞬が心に澱を残していく。その自在さと厳しい人間観を受け止めようとしつつ、特に残酷なことが起こる収録作で件の告白が頭をよぎる。私には作品と作者を切り離すのが難しいようだ。2025/01/31
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