内容説明
高校生の弟の不審な死を知らされ、数年ぶりに実家に帰った女性キー。ベトナム系の一家のなかでも、オーストラリアに馴染んだ優等生である弟。だが、それは本当の顔だったのか。謎を追ううち、キーは、自らを取り巻く社会と、弟の命を奪ったものの正体を知る。
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
ナミのママ
67
故郷で暮らす17歳の弟が殺害された。メルボルンでジャーナリストの一歩を歩み始めた姉のキー・チャンは久しぶりに帰省する。物語の舞台となるオーストラリア、シドニーのカブラマッタは実在する街。アジアからの移民が暮らしベトナム人街がある。キーの一家もベトナムからの移民家族だ。優等生で誰からも好かれていた弟はなぜ殺されたのか?事件当時に店内にいた17人は見ていないと証言を拒む。読み進めると移民、差別、貧困と闇が明らかになってくる。現代の日本では身近に感じない移民問題だが近い将来、他人事ではなくなるかもしれない。2024/08/10
ヘラジカ
42
優れた移民文学である。ミステリーの部分に期待してしまうと肩透かし感、もしくは尻すぼみ感を覚えてしまうはずなので注意が必要。本国メディアではセレステ・イングの傑作『秘密にしていたこと』が引き合いに出されていたが納得だ。テーマや構造がよく似ている。しかし、メインとなる主人公視点よりも、短いながら教師や友達目線の章の方が素晴らしかった。生々しくて力強い”文学”を感じた。ミステリー要素がやや暈けている点、クライマックスが少し弱い点など、もっと細部まで洗練されていたら傑作になったかもしれない。2024/07/02
星落秋風五丈原
41
昔、海外でよく見かけたのは中国人街だった。本当に世界中のどこの国にいっても見かけて、華僑の逞しさを実感した。しかしグローバル化が進み、いわゆる出稼ぎではなくその地に住む外国人が急増した。シドニー南西部郊外にあるカブラマッタは麻薬流行の中心地。最も不可解に見える状況で弟のデニーが殺害され、メルボルンから帰国した大学卒業生のキー。デニーは、カブラマッタの中心部にある人気のレストラン、ラッキー 8 で友人たちとプロム後のディナーに参加していた優等生目撃者は何人かいたが、全員が何も見ていなかったと主張している。2024/08/14
しゃお
30
殺された弟の死の真相を調べるキーですが、それは自身を追い込むものであり、そのやり場の無い哀しみや痛み、怒りや悔恨などといった感情の渦に、読んでいるこちらも胸が苦しく。言葉にされなかった、気付けなかった、気付こうとしなかった、そして蓋をしていた思いや考えって、多かれ少なかれ誰しも経験したり、抱えて生きているんじゃないでしょうか。だからこそキーが必ずしも全てを肯定はできなくとも、それでも理解したり赦したりする事で自分の中で受け入れられるようになる姿に共感するものが。豪の移民や人種差別などについても知れました。2024/07/20
リッツ
27
ベトナムから幼い頃移民としてオーストラリアへやってきたキーとその家族。白人社会のなかで苦労しながら働く両親の望みは子供が勤勉で立派な人になること。親子間での言葉の壁、考えの違い、時に反発しながらも努力して記者になったキー。幼い頃から姉妹のように育った友とは生き方が別れ優等生でいい子だった弟は何者かに殺されるが多くいたはずの目撃者は皆口を閉ざす。巻き込まれないように、家族のために、誰かを守るために…。多くの問題を孕んだ物語。どこを読んでも自然に作中の人々の立場になって気持ちが伝わってきて夢中で読んだ。2024/09/07