内容説明
住みにくい人の世を芸術の力で打破できぬかと思案する青年画家。あるとき温泉場の出戻り娘・那美に惹かれ、絵に描きたいと思うが何か物足りない。やがて彼が見つけた「何か」とは――。豊かな語彙と達意の文章で芸術美の尊さを描く漱石初期の代表作。(「漱石の文学」江藤淳、「『草枕』について」柄谷行人)
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ドワンゴの提供する「読書メーター」によるものです。
夜間飛行
321
第三者の立場から〝非人情〟な画を描こうと旅する画家の前に、出戻り美女の那美さんが現れる。画家は彼女をオフェリアに擬し、《余は余の興味をもって風流な土左衛門を》描こうとするが、気の強い那美さんには憐れが欠けていて画にならない。小説の終わり近く、出征する従兄弟に「死んでおいで」と言葉をかける那美さん。その直後に、満州へ行く先夫の出現に不意を衝かれて憐れを浮かべ、ここで漸く那美さんの画が成就する。芸術が完成したのはめでたいが、直前の「死んでおいで」という一言が頭から離れず、那美さんという人はやっぱり謎のままだ。2023/12/23
ehirano1
262
主人公が完全に傍観者で特に何も起こらず(え?)、世間の生きづらさから解放される「非人情(≠不人情)」についての物語というかもはや回顧録。私には文章が格調高過ぎて難解。しかし、何やら「美しさ」だけは確実に感じました。2025/10/25
まさにい
254
冒頭の文が有名なので既読と思っていたが未読だった。なんかいい感じの印象。それで色々調べてみる。漱石がまだ専業作家になる前の作品。そして親友である子規が死んでから少しったっての作品。漱石は帝大では八雲の後を受け持つ。また八雲復帰運動が学生から起こっている。更に帝大で職に就くにつき他の者とその地位を争ってもいた。とすると、山道を非人情(ここでは、世間との接触を避ける意)を求めて漂白するのもうなずける。また、主人公は画家なのに短歌や漢詩を作っているのは子規への思いからかもしれない。浄瑠璃的表現は難しかったが…。2016/12/19
Major
252
有名な冒頭の一節はもちろんのこと、人物の一挙手一動の精緻な描写とそれを可能にする日本語の豊かさに感銘を受けた。一個の人間存在(画工・・漱石自身でもある)の刻一刻と移ろいゆく意識を、主体(主観)と客体(客観)の間を揺れ動く一つの運動として捕らえる辺りは西洋哲学の影響であろう。それ故、壮年期の漱石はすでに純粋なる主体などどこにもなく、人間(世間)という関係性の中でのみ主体的であり得ることに気づいている。(ここまで岩波文庫版のレヴューに同じ)岩波版に加え、江藤淳、柄谷行人の解説が欲しく購読。3つのコメントへ続く2020/05/07
のっち♬
233
山奥の温泉宿で才気溢れる女性と出会った青年画家を通して芸術論などが披瀝される。「智に働けば角が立つ。情に棹せれば流される。意地を通せば窮屈だ」—特定の主義へ傾倒する芸術や「不人情」な世間に対する著者の不快感が反映された作品で、絢爛な語彙で多彩に織られた文章は言葉の持つ表現の可能性を奔放に例示している。中でも風呂場の情景の流麗で掴みどころのない湯煙の様な抽象表現の連発は圧倒的。非人情の美学を貫きつつ憐れみを求めるラストシーンは著者の趣意がうまく体現されている。智、情、意、どれも決して不要なものではないのだ。2021/01/20
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