内容説明
若き藤原定家が、生首に紫式部の和歌が添えられた事件や、西行が遭遇した密室からの人間消失などに挑む。後に『百人一首』に選出される、和歌の絡んだ謎解きを描く連作集。
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
パトラッシュ
148
藤原定家が和歌の見立て殺人事件を推理するとは、これ以上の名探偵はいない。源平合戦後の荒れた京都を舞台に世相のトリビアもたっぷり盛り込んで、愛する和歌を殺しに使われて怒り狂うエキセントリックな定家が微笑ましい。『蝶として死す』などで明敏な頭脳を披露した平頼盛から死体検案術を受け継いだ長男保盛とペアを組んで活躍する姿は、金田一耕助の先祖にも思える。しかし、この調子で定家の関わった事件から後の百人一首に繋がるのなら、更に95件は殺人が続く勘定になる。承久の変や新古今和歌集編纂を経て、あと19冊は続編が出るのか。2024/08/19
ちょろこ
117
歌人探偵ミステリの一冊。時は1186年、藤原定家が平保盛とタッグを組んで和歌に絡んだ五つの事件を解き明かす連作短編ミステリは時代を味わい謎解きに唸る面白さに満足感いっぱい。和歌をこよなく愛するがゆえに穢されては黙っちゃいられない性分の定家と、亡き父、平頼盛の想いを継いでひたすら目立たず生きようとする保盛のバディが時に明るく時に陰鬱に物語を彩りどんどん彼らと事件に魅了されるほど。しっかりとした組み立ての謎解き、扇の向こうに透ける真実に毎回感心。和歌の存在意義といい綺麗なまとめ方が気持ちよさまで運んでくれた。2024/08/23
たま
66
羽生飛鳥さん3作目。前2作『蝶として死す』『揺籃の都』は平頼盛が探偵役だったが、この作品では息子の保盛が藤原定家とタッグを組む。探偵定家に相応しく5編の短編すべてが有名な和歌に関係があり※、私には西行が登場する第2編が面白かった。東国の旅を終えた西行が干し柿を炙りながら頼朝との出会いや待賢門院との昔日の恋愛を語ったりするのだ。式部、業平、道真はともかく、式子内親王にはもっと活躍してほしかった。九条良経や後鳥羽院の登場する続編を期待しています。それにしても樋洗の使い方には呆然。こんな使われ方だったの? 2024/08/07
さつき
62
藤原定家と平保盛の探偵コンビ誕生!!天才肌でエキセントリックな定家と、父譲りの検死技術のある保盛を組ませるなんて面白い設定で楽しく読みました。5つの謎解きが描かれますが、惨殺死体のもとで偶然2人が出会ったり、過去の不思議な事件の真相を探ったり、八条院からの依頼を受けたりとその種類も様々でバランスよく読みやすかったです。まだまだこの2人の物語を読みたいです。続編待ってます。2024/09/08
藤月はな(灯れ松明の火)
57
編集さんと作者の会話が可愛い。流石、桜庭さんとF編集者さんとの軽妙な遣り取りで有名な東京創元社だぜ!さて今作は平頼盛の長男である平保盛を美形な武闘派ワトソン役に置き、藤原定家をホームズ役としている。だが、今作の藤原定家像に噴くのを抑えなければならなかった。何故なら虚弱体質でありながらも大好きな歌を冒涜されると憤激し、死穢も厭わず、人殺しも厭わない盗賊にも臆することなく、(相手は引いているにも関わらず)立て板に水の布教・説教を辞さないし、尊敬する歌人との遣り取りに魂が抜けるからだ。彼こそ、まさにオタクの鑑!2024/08/23