内容説明
叔父を殺したことは固く秘しておくべきだった。自殺するなんてと母が泣き続けるものだから、本当はわたしが崖から突き落としたのだとわかれば、すこしは気が楽になるかと思ったのだ。震災で妻を失いPTSDに苦しむ叔父との同居に疲弊する家族のために、小学六年生の左右田理恵(そうだりえ)は叔父を殺した。その四年後、理恵は奇妙な夢を見るようになる。荒れ果てた灼熱の地で岩蔭と食糧を求める「鬼」の集団。かれらは二つの勢力に分かたれ争い殺し合う――その法則を理恵に教えたのは、同じ夢を共有する一人の少年だった。鬼才の幻視文学の頂点となる幻の傑作、初単行本化。/【目次】羅刹国通信/続羅刹国報/続々羅刹国――雨の章――/続々羅刹国――夜の章――/解説=春日武彦/津原国通信=北原尚彦
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ドワンゴの提供する「読書メーター」によるものです。
hanchyan@発想は間違ってない
30
5月の半ばに開いた本書。ようやく読み終わりました。過去の自らの振る舞いに『負い目』を自覚してるJkを主人公に据えた一人称の小説。読んでるとなんとなく、彼女の語りのベクトルは、ただ一人彼女自身に向かってるように思えてきて、置き去り感、というよりはむりろ(ひとつの作品に際しての)「仲間外れ感」が身に沁みる。キャラ立ちが売りのエンタメ群像劇とは、そのベクトルは真逆だ。「ひとつの個性に徹底的に寄り添うことが、受け手の存在に優先する小説」ていう意味では、町田康さんの「告白」に近いかもしれない(※当社比です)↓2024/06/03
rosetta
29
★★★☆☆不条理小説?幼い頃崖から叔父の背中を押して殺してしまった女子高生が自分の額に角が生えていると信じ、毎夜羅刹の国の夢を見る。2000年から2001年にかけて発表され、どうやら未完成。そんな小説が20年以上も経って今更出版されるのも大人の事情(笑)。解説によると作者にはボスニア内戦を告発するの意図もあったらしい。いずれにせよ読んでいて楽しかったかと聞かれると素直には頷けない本であった2024/06/11
えも
27
亡くなってしまった作家、津原泰水が2000年頃に書いた作品が単行本化されたもの。新たな津原作品が読める幸せ▼ 12歳で叔父を殺した少女が中学生になり、夢で羅刹の国を彷徨う。現実では病院に通って薬を処方しつつ、人には見えない自身のツノを気にする暮らしを続ける。周りには時折ツノを持つ人が現れ、夢では彼らとともに沙漠を旅する▼作者はボスニアをイメージして書いたらしいが、そうした要素は感じられず、極めて幻視的で魂の奥を探るような作品であった。2024/08/09
いちろく
24
やっぱり未完なのか……。叔父を殺した過去が16歳の少女の現実を蝕んでいく展開。読み進めるうちに、現実の出来事なのか? 夢なのか? 描かれている内容は信頼出来るのか? と虚実混合の世界観に戸惑ってくる。著者が創る幻想的な世界観に少しずつ入り込めたと思った所で、了。この物語の続きが永遠に読めないことが、ただ悲しい。春日武彦氏の解説が、描かれなかった部分を含めて読解の補完になった。死後に、刊行されていなかった作品が単行本のカタチで日の目を見ている点でも、改めて著者の凄さを感じる。2024/08/25
くさてる
19
高校生である主人公は4年前に叔父を殺した。そしていま、自分に角が生えてきていることに気づく。人を殺した人間にだけ生える角。そして彼女は夢の世界で鬼となり……という長編。独特の迫力とさすがのリーダビリティでぐいぐいと読まされたけど、まさか未完と思わず参ってしまった。春日武彦先生の解説が良かったです。2024/08/22




