内容説明
30年ぶりにアメリカから帰国し、武蔵野の一角・うらはぐさ地区の伯父の家にひとり住むことになった大学教員の沙希。
そこで出会ったのは、伯父の友人で庭仕事に詳しい秋葉原さんをはじめとする、一風変わった多様な人々だった。
コロナ下で紡がれる人と人とのゆるやかなつながり、町なかの四季やおいしいごはんを瑞々しく描く物語。
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
ヴェネツィア
410
タイトルからはエッセイかと思っていたが、小説。もっとも、物語的な起伏は小さく、終始淡々と進んでゆく。主人公であり、物語の視点人物の役割を果たすのは沙希。それまでのアメリカ暮しを捨てて、先頃帰郷し、ここ「うらはぐさ」の女子大で2年契約の教員として働いている。「うらはぐさ」は、武蔵野あたりを漠然と指しているようだが、直接のモデルとなっているのは、西荻窪の東京女子大とその近郊あたりである。地名としての「うらはぐさ」は、古き良き武蔵野を彷彿とさせ、そこには独特のノスタルジックな感傷が付加される。作中の⇒2025/08/14
旅するランナー
227
東京西部、武蔵野が舞台。米国生活から学生時代の思い出の地に30年ぶりに帰ってきた、大学教員の沙希を主人公に、キャラ強な人たちの交流が温かく面白い。 戦争も含めた、この土地の歴史も交えて、変わり行く時代を映し出していきます。 進化かどうかは別として、人も土地も変化ってものには抗えない。 良い方に変わっていくことを期待しながら、読み進めます。2024/07/28
tetsubun1000mg
203
アメリカで大学教師を勤めた後に30年ぶりに戻ったところが武蔵野の「うらはぐさ」での物語でした。 母校の女子大で2年間契約の特任教授を勤めながら、施設に入居した叔父の自宅に入居となる。 舞台設定された場所が気になったのだが、本人の刊行インタビューを読むとやはり西荻窪との事。 著者も東京女子大出身ですしね。その昔、西荻の善福寺に住んでいたこともあり当時の印象のまま読み進めると情景が浮かんできた。 主人公の設定年齢も筆者に近いのか、古い商店街での生活がリアルに感じられた。 中島京子さんの小説は読みやすくて良い。2025/04/10
のぶ
185
中島さんらしい優しい雰囲気の物語だった。主人公は米国で日本語の教員をしていたもののその学科が廃止となり、離婚もしたことから帰国した、田ノ岡沙希。舞台は武蔵野の一角・うらはぐさ地区とそこにある昔からの商店街。描いているのは、これから動き出す商店街の再生活動の前段階で、そこに住むちょっと不思議な秋葉原さんの存在が面白い。本作ではややノスタルジックな商店街や地区に残る自然、そしてそこに根差したようなごく普通の食べ物や、そこに住む人々の群像劇。特に何も起きないけれど、なぜか癒されるような作品だった。2024/04/03
モルク
178
離婚して30年ぶりに帰国し母校の女子大で非常勤講師として働くことになった沙希。施設に入った叔父が暮らしていたうらはぐさ地区の一軒家に住み、周辺の人々と心暖まる交流を持つ。そしてもうひとつの主人公はこの地区、うらはぐさ。架空の地名ではあるが中島さんの母校東女の近くかな?西荻窪近辺?本書に出てくる焼き鳥や「布袋」は西荻窪駅近くの「戎」⁉昔は女の人が入れる感じじゃなかった気がするけど…変わったのかな、そもそもまだあるのか?月日が経つと共に変わりゆくものは多いがこんな商店街と人情はずっと続いて欲しい。2025/04/08