内容説明
ある夏の朝。時速2、3キロで滑空する物体がいた。《飛ぶ男》の出現である。目撃者は3人。暴力団の男、男性不信の女、とある中学教師……。突如発射された2発の銃弾は、飛ぶ男と中学教師を強く結び付け、奇妙な部屋へと女を誘う。世界文学の最先端として存在し続けた作家が、最期に創造した不条理な世界とは。死後フロッピーディスクに遺されていた表題作のほか「さまざまな父」を収録。(解説・福岡伸一)
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
ヴェネツィア
310
安部公房の死後、フロッピー・ディスクから発見された。安倍の最後の小説ということになるが、残念ながら未完。というより、ここからどんな風に構想を広げようとしていたのかも不明である。表題の「飛ぶ男」は小説の冒頭でいきなり現れる。空中を浮遊し、時速2、3キロで移動しているところを3人に目撃され、そのうちの1人である女に空気銃で撃たれる。保根の一人称で語られるが、小説全体が荒唐無稽でありながら、細部は強いリアリティを持つ『箱男』などに見られるスタイルである。なお、「飛ぶ男」は、父親によって「追われる男」でもある。2024/09/23
コットン
91
著者の死後フロッピーに残っていた文章の文庫化作品。不条理劇の中で主人公が自嘲する様子が安部公房のおはこだと思うが今回もわかっていながら引き込まれる魅力がある。飛ぶ男の登場からして突然現れ 、当然のように飛んでいて説明もない⇒そして飛ぶ男が撃たれ主人公の家の窓から入って来るところから話が進むあたりもお得意の巻き込まれ形で……。これが長編になっていたら、どう進む予定だったのだろうか?2024/04/06
Vakira
87
生誕100年祭。コボさんの作品は新潮文庫ベースですが10代の頃に読破した記憶。しかし、ストーリーを忘れてしまった物もあるのでコボさん祭りに乗っかり読んでいる。これ、コボさん没後に発見された未完の最新作。過去の作品を知って読むと以前に書かれた作品の集合体の感。「蘭入者」「幽霊はここにいる」「箱男」のキャラクタープロットを流用。覗く者は空気銃で撃たれるし、認知してない弟は乱入してくるし、彼女はバイトでヌードモデル。文体もうんうんコボ文学。読めて嬉しいったらない。未完なのが残念。さあ 続きを妄想いたしましょう~2024/03/19
yukaring
73
死後にフロッピーに残されていたという未完の遺作。突如現れる「空飛ぶ男」と空気銃を放つ女。かなり不条理な世界観が独特のストーリー。ある夏の朝「空飛ぶ男」を見た目撃者は3人。暴力団の男、不眠症の中学教師、男性不信の女。ある人は知らないふりを決め込み、ある人は自分を狙っている暴行魔だと思い込み、ある人は飛んでいる男から電話を受け、飛ぶ男と彼の奇妙な関係について聞かされる。その後の理解不能なドタバタ劇は未完のためかわざとなのか、そしてどこへ向かっているのか?何を読まされたのか思わず首をひねりたくなる不思議な1冊。2024/03/23
みこ
69
空を飛ぶ男、男を空気銃で打つ女、男から兄と呼ばれる男。未完の遺作ということを抜きにしても感想やレビューに困る作品である。膨大な構想の序章に過ぎないのだろうと感じさせられる。20年近く前だが、「箱男」や「砂の女」を読んで安部公房世界に触れておいて良かった。そうでなければ何だかよく分からないままだったかもしれない。並子が保根の心の中に踏み込んでどうなったかもう少しだけ読みたかった。2024/03/31