内容説明
誰からも愛された弟には、誰も知らない秘密があった。突然姿を消した弟、希望(のぞむ)。行方を追う兄の誠実(まさみ)は、関係者の語る姿を通し弟の持つ複数の顔を知る。本当の希望(のぞむ)はどこにいるのか。記憶を辿るうち、誠実もまた目をそらしてきた感情と向き合うこととなる――。痛みを抱えたまま大人になった兄弟が、それぞれの「希望(きぼう)」を探す優しいエールに満ちた物語。文庫化にあたり、書下ろし短篇を収録。(解説・山中真理)
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
雪
66
失踪した弟、希望の行方を捜すミステリーかと思って読み始めたが、希望に関わった人たちを通して彼そのものがどんな人間だったのかを見つめ直す物語だった。静かな、不思議な余韻を残す、寺地さんの中ではとても好きな作品。書き下ろし短編で希望のその後も知ることができて良かった。2024/05/15
Karl Heintz Schneider
65
誰からも愛される自慢の弟・希望(のぞむ)が、ある日突然失踪した。兄の誠実(まさみ)はそのゆくえを追うが、その過程で弟の真の姿を知ることに。一話終わるごとに様々な人物が希望のことについて語り始める。ところが語り手によって印象が全然違い、戸惑う誠実。すぐ近くで生活してきた家族なのに見えていないことのなんと多いことか。近くにいるからこそ見えない、もしくは見ようとしないことってあると思う。この本はそんな家族の在り方を突き付けてくる。決して他人ごとではなく、考えさせられる一冊だった。2024/07/14
みこちゃん
62
突然姿を消した弟、希望を探してと母親に頼まれた誠実。歪な家族関係の中で、誠実は見たくないものは見ずにやり過ごす術を身につけた。希望は全てを受け入れることで、意図せず自分の立ち位置を見出そうとしたのか。希望は仕事で出会った年上女性と逃げていることが判明。希望はなぜ姿を消したのか?本来の自分を押し殺してい続ける場所にしがみつく必要はない。それがたとえ家族であっても。最後は希望が自分の苦手なことと向き合って克服しようとする姿が確認できてホッとした。いい人でいることに拘らず、自分らしくいられる場所が何より大事。2024/06/08
kotetsupatapata
57
星★★★☆☆ 人間誰しも完璧でなく、多くの欠陥を抱えて生きているもの。主人公の誠実も失踪した弟の希望を探しているうちに、知らなかった弟の側面を知るとともに、己の欠陥(事なかれ主義・嫌な事から目を逸らす)事に気づいていく。 希望も自分という核が無い故に、他人に求められていることを受け入れていくうちに心が疲弊し、失踪という手段に出たのでしょう。 決してハッピーエンドとはいえない結末ですが、二人ともこれでようやく人生のスタートラインに辿り着けたのでしょうか 二人に幸多かれん事を祈るばかりです2024/09/09
優希
50
突然姿を消した弟・希望。行方を追う誠実は希望の持つ様々な顔を見ることになります。本当の希望はどこにいるのか、記憶をたどるうちに誠実が目を逸らしていた感情に向き合うのが痛みとして刺さりました。痛みの中にいた「兄弟」はそれぞれの「希望」を探すため歩んでいったのだと思います。優しさを感じる物語でした。2025/04/08