内容説明
「なぜ本書が、(中略)かような一大傑作論考として結実したのかといえば、それは結婚が全部悪いのである。」(あとがきより)
「どうして結婚したんですか?」
この、デリカシーに欠けた、無配慮で苛立たしい“愚問”がもたらしたのは、人はなぜ冒険するのかという「最大の実存上の謎」への偉大な洞察だった!
人生の下り坂に入ったと自覚する著者が、探検家としての思考の遍歴を網羅した傑作エッセイがついに文庫化。
〈解説〉仲野徹(生命科学者)
目次
序 章 結婚の理由を問うのはなぜ愚問なのか
第一章 テクノロジーと世界疎外――関わること その一
第二章 知るとは何か――関わること その二
第三章 本質的な存在であること(二〇一九年冬の報告)――関わること その三
第四章 漂泊という〈思いつき〉――事態について その一
第五章 人はなぜ山に登るのか――事態について その二
終 章 人生の固有度と自由
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
活字スキー
18
【なぜ本書が、斬新な概念を駆使しつつ、その実存的動態に迫る一大傑作論考として結実したのかといえば、それは結婚が全部悪いのである】寒い季節になると、極北の冒険野郎カクハタが今どんなことになってるのか気になるのが人情というもの。『中央公論』の連載をまとめて2020年に刊行された単行本に若干の加筆・修正をおこなった文庫版で、近年は一年の半分弱をグリーンランドで過ごしているという角幡さんの探検観というか人生観の変遷をしっかり味わうことができてとても面白かった。2024/01/17
roatsu
12
P116に出てくる記述ではないが「数行の記述でおわってしまう単調な環境のひろがり」的な主題にくどくど屁理屈をこねくり回し膨らませただけの空疎な内容と感じた。シオラパルクから発信するXの方がよほど面白い。本気かネタか、結婚の理由を聞かれただけでここまで拗らせることができるのはある意味凄い。身体拘束されて結婚を強いられたならともかく、好きな異性が現れて互いに一緒になる「選択」をしてめでたく結婚したんだろうに。それ以上でも以下でもないことを「事態」などと言い張ろうとするからおかしな話になる。P203の奥さんなど2024/01/23
glaciers courtesy
9
角幡唯介が「自分の著述活動のひとつの道標となる記念碑的な作品」と自分で言っているし、解説では中野徹が激賞しているのだからあまりくさしたくはないが、それほどの作品か、というのが正直な感想だ。GPSを伴う冒険に対する違和感は「極夜行」などで繰り返し触れられてきたテーマだし、このあたりに関しては何の目新しさもない。「なぜ結婚をしたのか」ということに関する考察も結局、なり行きに従っていたらそうなっただけということであって、能動態と受動態の中間の中動態という概念が紹介されるのは確かに面白いけどね、とだけ感じるのだ。2024/05/16
ひでお
8
山や探検について、自身の行動を哲学的に理論づけようとした本です。そこまでして自身の行動を説明しなくてはならないのかと、少し理解できないところもあります。また、結婚と冒険を同一次元で語るのも、なんだか違和感があってどうもしっくりこない展開でした。著者のいう「事態」に流されるだけではなくて、選択や判断の分岐点だってあるように思えるのです。2024/06/23
ゆうすけ
8
47冊目、この20年で最も少ない。2023年の読み納めは、何と2年連続で角幡唯介さん。その前年はこれも文庫化されたばかりの『極夜行前』でした。年末の休みで、読了できた。著者の探検ノンフィクションはよりエッセイを好んで読んでいます。そしてこの本はかなり異色な内容でした。なんといってもハイデカーとか國分功一郎とかがに引用されている。そこそこ難解なのですが、凄まじい筆力でぐいぐい読ませる。角幡氏は探検家であると同時に徹底して考える人です。「態度」と「関わり」という概念をもっと色々なバージョンで書いて欲しいです。2023/12/31