内容説明
「2022年2月24日は、ほとんど何も書けなかった。キーウに響き渡ったロシアのミサイルの爆発音で目覚めた私は、自宅アパートメントの窓辺に一時間ほど立ち尽くして人気のない街路を眺めやり、戦争が始まったと気づいたが、この新たな現実をまだ受け止められなかった。続く数日間もやはり何も書けなかった。車でまずはリヴィウに、それからカルパチア山脈をめざした移動は、果てしない渋滞で想像を絶する長旅になった。国内の他のあらゆる地域からの車の波が、西へ続く道という狭い漏斗めがけて押し寄せていた。誰もが戦争の暴力から家族を守るために逃げようとしていた」――まえがきより
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ドワンゴの提供する「読書メーター」によるものです。
hiace9000
102
膠着し泥沼と化すロシアによるウクライナ侵略戦争。停戦の糸口すら見えない戦争は3年目突入か。アンドレイ・クルコフは言う。"悲劇の経験を吐き出すことは忘れるための手段ではなく、建設的に記憶し、悲劇の結果を自身の歴史と文化の遺産にするための手段"だと。2021年12月からの半年間、戦時下のウクライナで綴られた日記は、単なる身辺雑記ではなく、文学者の視点で政治、文化、社会、歴史について深く思索を巡らしたウクライナ人の尊厳=魂のアーカイブであり、プーチンの野望に抗する一本の狼煙だ。歴史的トラウマの現実がここにある。2024/01/18
藤月はな(灯れ松明の火)
69
2022年2月24日前まで、日本のニュースでは切迫する一方で楽観視するウクライナ市民を映していた。だが、ウクライナによるロシアへの危機感は2004年以前からも続いていた。その事実はこの日記で明らかである。同時に戦争であっても日常を営む事や希望を忘れない事も綴られている。それは大国の横暴に振り回された歴史から生まれたウクライナ市民の精神性でもある。国民的パン工場の爆破への追悼に項垂れ、戦争に左右される母語選びやロシア文学への評価がしょっぱい。一刻も早く、ウクライナ侵攻への平和的終着が訪れる事を祈りを込めて。2024/02/08
nobi
54
ニュースでの空撃の様子だけでも心痛むことであったけれど、「ペンギンの憂鬱」の作者自ら避難する中での日々の記録は生々しく、2022年当時のウクライナの人たちの現実が身に迫ってくる。侵攻後二ヶ月の間に、数万の家屋、数百の学校、図書館、博物館、文化施設が破壊される。マリウポリ劇場、著名作家の自宅も。抗議者は殴られ連行される。皆の生活だけでなく文化が破壊されてゆく。その中、ウクライナの人たちは楽天的な気風を失わない。自ら被害に会いつつボランティアは避難民を感情面精神面で支え、温度差はあれ近隣諸国からの援助もある。2026/03/10
Nobuko Hashimoto
26
本を次々読む演習で学生が取り上げてくれた。本書はロシアによる全面侵攻直前から半年の記録。クルコフはロシア出身だが、ウクライナ人として生きる覚悟を前面に出していて緊張感がある。発表した学生も言っていたが、日本の報道だけではわからない現地の雰囲気や具体的な動き、人々の思いが伝わってくる。本書は英語で書かれたものからの翻訳なせいか細かな訳注はないが、あればあまり詳しくない読者に親切かも。クルコフは2013-4年のマイダン革命のときの日記も出していて(『ウクライナ日記』)、そちらもたいへん面白い。2024/01/22
かふ
25
最初ゼレンスキー批判で戸惑ってしまったが、ゼレンスキーもウクライナのナショナリズムを煽っているという。もともとメディア出身者で、そうしたメディアの使い方に長けていた。クルコフはウクライナに住むロシア人であり、ロシア人に誇りを持っていたと思う。それを崩したのがプーチンでありキーフ侵略後は怒りに満ちている。それでも冷静になり笑いを忘れずに日記を書き続けているのだ。いつか終わることを期待して。しかし、未だに終わりが見えなかった。プーチンはロシア人を世界の敵に廻し、若者のロシア離れを引き起こしてしまった。2025/05/21
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