ちくま新書<br> 安楽死が合法の国で起こっていること

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ちくま新書
安楽死が合法の国で起こっていること

  • 著者名:児玉真美【著者】
  • 価格 ¥935(本体¥850)
  • 筑摩書房(2023/11発売)
  • ポイント 8pt (実際に付与されるポイントはご注文内容確認画面でご確認下さい)
  • ISBN:9784480075772

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内容説明

日本にも、終末期の人や重度障害者への思いやりとして安楽死を合法化しようという声がある一方、医療費削減という目的を公言してはばからない政治家やインフルエンサーがいる。「死の自己決定権」が認められるとどうなるのか。「安楽死先進国」の実状をみれば、シミュレートできる。各国で安楽死者は増加の一途、拡大していく対象者像、合法化後に緩和される手続き要件、安楽死を「日常化」していく医療現場、安楽死を「偽装」する医師、「無益」として一方的に中止される生命維持……などに加え、世界的なコロナ禍で医師と家族が抱えた葛藤や日本の実状を紹介する。

目次

序章 「安楽死」について/1 「安楽死」への関心の高まり 相模原障害者施設殺傷事件/京都ALS嘱託殺人事件/映画『PLAN 75』の世界/素朴な善意から「安楽死が必要」と言う人たち/2 「安楽死」とは何か 「尊厳死」との違い/「積極的安楽死」と「医師幇助自殺」/本書での文言の使い分け/第一部 安楽死が合法化された国で起こっていること/第一章 安楽死「先進国」の実状/1 世界の概況 2008年から現在/その他の国々の動き/それぞれの違い/2 スイスの自殺ツーリズム ラディカルになっていく自殺ツーリズム/グッダールの自殺とドクター・デス/3 オランダとベルギー 機動安楽死チームと「75歳以上なら可」という法案/精神障害者等への拡大とティネ・ニース訴訟/オランダの「コーヒー事件」/子どもへと拡大する安楽死/4 カナダ 転換点となったカナダの合法化/MAIDの特異性/社会福祉の代替え策にされるMAID/コロナ禍で増える高齢者の安楽死希望/第二章 気がかりな「すべり坂」──線引きは動く/1 緩和ケアとの混同 例外措置でなくなっていく安楽死/患者心理に潜むパラドックス/2 対象者の拡大と指標の変化 対象者の拡大/「救命可能性」から「QOL」へ指標の変化/手続きなど要件の緩和/3 「死ぬ権利」という考え方に潜む「すべり坂」 安楽死は「権利」か/VSEDと「自殺する権利」/4 日常化に潜む「すべり坂」 医療現場でルーティンと化す安楽死/偽装される安楽死/5 崩れていく「自己決定」原則 困難な意思確認/子どもへの拡大/6 社会保障費削減策としての安楽死 コスト削減圧力/社会が医療に「殺させる」ということ──良心条項と医療の権威性/政治と医療が犯してきた人権侵害/7 安楽死後臓器提供・臓器提供安楽死 すでに現実となっている安楽死後臓器提供/相次ぐ「臓器提供安楽死」の提言/うごめく政治経済上の思惑/第二部 「無益な治療」論により起こっていること/第三章 「無益な治療」論/1 テキサスの通称「無益な治療」法 広がる「無益な治療」論/病院による治療中止判断/ゴンザレス事件/多発する事件、訴訟/「医学的無益性」とは何か/ゴンザレス事件をめぐる倫理議論/2 「無益な治療」論の「すべり坂」 「無益な治療」論における対象者の拡大/最小意識状態へ回復しても「無益」/英国の気がかりな判決/「無益な治療」論における指標の変質/QOLを数値化する医療経済学/「健康寿命」のサブリミナルなメッセージ/「この治療は無益か」から「この患者は無益か」への変質/「質的無益」論の人間観/英国のLCPスキャンダル/英国のDNRスキャンダル/日本のDNR指示/「人間らしい」「意味のある人生」とは?/「無益な治療」論と医療コスト/「無益な治療」論が見えなくしているもの/3 「無益な治療」論と臓器移植の がり 「有望な臓器ドナー・プール」/心臓死後の提供から脳死後、そして心停止後臓器提供へ/デンヴァーこども病院の「75秒ルール」/「循環死後臓器提供」への名称変更/「無益な治療」論との符合/ナヴァロ事件/第四章 コロナ禍で拡散した「無益な患者」論/1 コロナ禍でのトリアージをめぐる議論 緊急事態宣言下の困難/米国のトリアージをめぐる議論/医療資源の「公平な分配」というロジック/年齢による線引き/日本のトリアージをめぐる議論/「クロ現+」の言葉の使い分けの不思議/2 コロナ禍が炙り出した医療現場の差別 「迷惑な患者」問題/英国メンキャップの報告書『無関心による死』/コロナ禍で知的障害のある人たちが直面する医療へのバリア/コロナ禍でトリアージを議論する人たちの無関心/第三部 苦しみ揺らぐ人と家族に医療が寄り添うということ/第五章 重い障害のある人の親の体験から医療職との「溝」を考える/1 医師─患者関係を考える 「無益な治療」論の息苦しさ/「白い人」の不思議な世界/医師─患者関係に潜む深い溝/2 医療職と患者・家族の意識のギャップ 「医療」と「生活」の大きさの違い/「判定」のまなざしを「なぜ」へと転じて他者と出会う/親と医師で食い違う「QOL」/3 日本の医療に潜むリスク 日本の不思議な「インフォームド・コンセント」/日本型「患者の自己決定」/日本病院会の「尊厳死」の不思議/患者に権利の放棄を説く日本の医師たち/日本の患者サイドの権利意識は?/早川千絵監督の言葉/ACPという日本型「自己決定」/ステルスで進行する日本型「無益な治療」論という「崖」/第六章 安楽死の議論における家族を考える/1 家族による「自殺幇助」への寛容という「すべり坂」 豪州と英国の家族ケアラーによる「自殺幇助」/類型化により見えなくなる家族の実像/残された家族の苦しみ/2 家族に依存する日本の福祉 日本では、家族介護が「含み資産」/老障介護の現実/家族に「殺させる」社会/3 苦しみ揺らぐ人に寄り添う 患者の苦しみのリアリティを理解する/患者の主観的苦しみのリアリティ/患者とともに取り組む/医療職の苦しみとそこに潜むリスク/意思を翻した人たち/意思は不変で強固か/4 苦しみ揺らぐ人の痛みを引き受ける 自分の無力という痛みに耐えてかたわらに留まり続けるということ/終章 「大きな絵」を見据えつつ「小さな物語」を分かち合う/あなた賛成派それとも反対派?/両義的なところで引き裂かれる当事者の思い/「大きな絵」の中に問題を据え置いて考える/「小さな物語」に耳を傾けるということ/問いを「なぜ」へと転じて「是非」の先の地平に開く/原点に戻って問題を設定し直す/親ケアラーとしての思い/声を上げにくくされている者たちだからこそ/あとがき/参考文献

感想・レビュー

※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。

読特

84
どうせ死ぬなら、楽に逝きたい。安楽死への甘い誘惑。しかし、死への主張を強めることは、生への権利を奪われることにもつながる。揺れ動く気持ちの中で、一旦死にたいの意思を示したら撤回が効かない。再び生きる希望を持つことは許されず手続きが進められる。限られた医療リソース。QOLを望めない人生は切り捨てられる。障害を持つ子の救命は後回しにされ、長生きを模索する高齢者は煙たがられる。生活困窮者には助けることよりも死を選択させる。安易な法制化は地獄への一歩。「賛成」「反対」の二元論で語る前に知るべきことがたくさんある。2024/05/12

HANA

73
欧州を中心に自分の死ぬ権利を求める「安楽死」。本書はその安楽死が合法化された国々で何が起きているのかをルポした一冊。著者のスタンスがどちらかというと安楽死否定派っぽいのでそこに留意する必要あり。安楽死は苦しまずに死ねるなら、末期の不治の病に侵された患者にとって救いとなるのではと今までは単純に考えていたが、それに付随する様々な問題が致命的。安楽死の範囲を拡大する滑り台効果に臓器移植の問題、そしてコスト削減を問題とした「無益な治療」論。現代社会、やはり生産性と思想によって全体主義化しているように感じるなあ。2023/11/30

壱萬参仟縁

55
2022年度。最後になった高校現代社会の倫理分野で出てきた人の尊厳(SOL)を思い出した。尊厳死:終末期の人に、やらなければ死に至るような治療や措置を控える(始めない)、中止して死なせる。安楽死:医師が薬物を注射して死なせる。消極的安楽死;死ぬに任せる。積極的安楽死;死に至る行為を医師がする(019頁)。蘭は2001年、ベルギーは02年、世界初積極的安楽死を合法化(037頁)。2025/03/22

マイケル

55
最近は安楽死関連の新書が色々出ているが、これほど重く恐ろしい本は珍しい。死の権利主張の陰でどんどん進められている優生思想による臓器提供安楽死。2013年「死の自己決定権のゆくえ―尊厳死・「無益な治療」論、臓器移植」から 10年で安楽死合法の国が増えている。無益な患者・治療。患者の想いに無頓着な医師。すべり坂。トリアージ。安楽死は社会保障費削減策。現代はナチス「T4作戦」に近づいているのか。功利主義者ピーター・シンガー「パーソン論」の「血友病の新生児を殺すことは正しい」なんて。「コーヒー事件」は殺人では。2023/12/14

樋口佳之

54
実態として前者つまり日本で言うところの「尊厳死」は、現在の終末期医療においてすでに選択肢のひとつとされ、日常的に行われている。/合法化の現実が何をもたらすか、それらの国は宗教上の伝統からも個人の権利意識の上からも日本とは違うはずで、それでさえの事例報告。これ以上は止めた方が良いと思いました。医療費の件、移植医療の件、要はお金の話は想像通りですけど、医療従事者の倫理観が大きく変更されてしまう事が何より大きいと感じました。2024/03/12

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