内容説明
手紙を詰めた壜を海原に投じるとき、書き手は「誰かは知り得ないが、どこかにいるあなた」へ届くと信じている。自分が名宛人でなくても自分宛のように受け取れる言葉が、この世界には確かに存在している。時空を隔てた「あなた」とわたしの関係――。
ナンシー、ツェラン、ベケット、リクール、デリダ、石原吉郎、青柳瑞穂、宇佐見りん、会津八一、ベンヤミン、石沢麻依……。思想と文学を結び、書かれた言葉を紡いでフランス現代思想の気鋭が贈る、傑作散文集。
目次
1.「あなた」を待ちながら
2.庭付きの言葉
3.岸辺のアーカイヴ
4.私にとっての赤
5.一人の幅で迎えられる言葉
6.記憶と醗酵
7.断片と耳
8.誇張せよ、つねに
9.あてこまない言葉
10.「あなた」とともに
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
アナクマ
29
著者自身も当事者である〈色覚異常〉という切り口もあり。「赤という色名によって切り分ける世界の範囲が多数派と少数派で異なっているということだ。どちらかが正しいということはありえない。しかし実際には少数派の赤はまちがいだとされてしまう。数による暴力が忘却され、赤色盲は否定態として特徴づけられる」(p.52)2025/03/03
アナクマ
27
1-3章_「すぐには意味が理解できないにもかかわらず記憶の襞に引っかかり、忘れたと思ったころにふと思い出してしまうような言葉」について哲学する。誰かに宛てて投じられたメッセージ・ボトル。ゴドーを待ちながら何かをすること。予期せぬ他者を受け入れる庭(『動いている庭』クレマン)、中動態、潜勢力など。本を買うという趣味についてくだくだと述べる部分が愉快だが〈デリダのアーカイブ〉につながる。形而上と形而下の境界に水面のようなものがあるとして、そこをぷかぷかと揺蕩うような書き物。この世は見えない投壜でいっぱいだと→2025/02/16
かふ
18
「投壜通信」はアウシュヴィッツの中で絶望に苛まれながらも希望を「あなた」に託した手紙だという。ツェランの詩もそのようなものだと、著者はいう。「あなた」という他者が受け取ることを希望して、その言葉の断片を読むことによって希望の言葉は生き続けるというような。ツェラン、石原吉郎やベケット、ベンヤミン、デリダなどの作家について書かれたエッセイではあるのだが、その核心はジャン=リュック・ナンシー「共同体論」(ブランショやバタイユのフランス現代思想)だという。例えばこのレビューも「投壜通信」といえるのかもしれない。 2024/12/21
稟
2
近年読んだ哲学書の中ではベスト。投壜とはボトルに入れられた宛先のない手紙。その手紙は誰に届くかはわからない故に宛先不明、すなわち「誰でもよいあなたへ」(=不定の二人称)に宛てられたものである。そんなメディアを通じて行われる情報の送受信、すなわち「投壜通信」は、単なる牧歌的で空想的なメディアに留まらない意味を帯びているということを10の章段で紐解いていく。2024/12/10
Bevel
1
詩人、文学者、哲学者などのフレーズが、ふとしたときに思い出されなんとも言えない気持ちになる。そういうコミュニケーションのあり方が「投壜通信」と呼ばれる。蔵書としての潜勢力を背景として、クオリアとして赤までも、社会や共同体から離れた一人の幅で行われる「暴動」に駆り立てる。文体の身体性や、社会に対する抵抗、わからないをわかる「あてこまない言葉」、地獄のなかでの「投壜通信」によってなりたつ共同体などなど。。2024/04/16
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