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内容説明
明治44年、文豪・森鴎外の末子として誕生した類。東京千駄木の大きな屋敷で何不自由なく暮らしていたが、大正11年に父が亡くなり生活は一変。大きな喪失を抱えながら、自らの道を模索する類は、次姉の杏奴とともに画業を志しパリへ遊学。帰国後に母を看取り、やがて、画家・安宅安五郎の娘と結婚。明るい未来が開けるはずだったが、戦争によって財産を失って困窮していく。昭和26年、心機一転を図り東京・千駄木で書店を開業。忙しない日々のなか、身を削り挑んだ文筆の道で才能を認められていくが……。自らの生と格闘し続けた生涯が鮮やかによみがえる圧巻の長編小説! 第34回柴田錬三郎賞受賞作品。
目次
1 花ざかりの庭
2 ボンチコ
3 相続
4 花畑のアトリエ
5 十姉妹
6 マロニエの街角
7 黒紗の羽織
8 姉弟のパラダイス
9 鶏と蒲公英
10 丘の上のプチ・メゾン
11 文学の家
12 森家のきょうだい
13 七光り族
14 芥川賞
15 窓
16 春の海
講演 鴎外夫人の恋
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
のり
81
「森鴎外」の末子として育った「類」。何不自由なく生きてきたが、「鴎外」の死、そして戦争を経て状況が一変した。それでもなお、一般家庭とは比べ物にならない生活基準だった。根っからのボンボン体質が抜けずにその場しのぎ。画家を志したが挫折。そして分筆の世界へと…師に恵まれ評価も得たが、今度は二人の姉との溝が深まる。分筆で父・姉と同じ場で生きるには、あまりにも覇気が足らない。偉大な家族を持つと大変だ。妻の「美穂」は良く耐え抜いたと思う。2023/12/07
イシカミハサミ
27
森類。 森林太郎(鴎外)家はキラキラネーム、 というのはまずまず有名な話。 平成になるまで存命だったとは知らなかった。 「あなたのような方が生きていける世の中ではなくなったんですよ」 自分に言われたかのような言葉だった。 戦争、戦火がもたらしたものというのは 有形の物よりも無形の物の方が大きいのかもしれない。2024/04/25
マダムぷるる
26
森鴎外の末子、類の生涯を描いた小説。類の生涯でありながら、鴎外の偉大さ、パッパとしての姿を伝え、森家の家族のこと、大正から平成までの日本の様子、など読み応え十分。鴎外が大変な子煩悩であったことは小堀杏奴の著書で知っていたのだが、志げさんのことや於菟さんとの関係などは初めてで、興味深く読んだ。志げさん没後、姉二人とあるきながら交わす会話が妙に心に残っている。類さん、多感な時期に偉大な父をなくし家族に、時代に翻弄されながらしっかり者の奥様とお子様たちと過ごした日々だったのね。じっくり堪能した。2023/10/16
mayumi
25
森鷗外の末子・類を描いた作品。鷗外の4人の子供達。前妻の子の長男・於菟、長女・茉莉、次女・杏奴、末子・類。兄妹それぞれの違いが出て面白い。後妻の志げに目の敵にされながらも、父の死後は妹弟の財産を守った誠実な於菟、お嬢様気質が抜けず、嫁ぎ先でうまくいかず、離縁されてしまう茉莉、しっかり者で努力家の杏奴、そして何をやってもうまく行かない類。鷗外は子供達を深く愛した。それは子供達に幸せな記憶をもたらした。でも「鷗外の子」であるプレッシャーも子供達は背負わなくてはならなかった。そんな森類の紆余曲折の生涯だった。2023/10/09
ちゃま坊
23
森鷗外の息子「類」のこと。優秀な人材が多い一族の中では凡人。しばらくは偉大な父の残した印税と利子で食っていけた。放蕩息子というわけではないが中学中退。働く必要はなかったから、絵画を習いフランスまで行く。結婚して子供もできたし戦争も上手く生き延びた。ところが鷗外の著作権収入は死後30年で切れるらしい。さて働かないと妻子を養えなくなった・・・「いつまでもあると思うな親と金」が教訓。 佐藤愛子「血族」や北杜夫「楡家の人々」との読み比べ。2024/09/05