新古事記

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新古事記

  • 著者名:村田喜代子【著】
  • 価格 ¥2,299(本体¥2,090)
  • 講談社(2023/08発売)
  • ポイント 20pt (実際に付与されるポイントはご注文内容確認画面でご確認下さい)
  • ISBN:9784065326831

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内容説明

第二次大戦日米開戦後のアメリカ。オッペンハイマー、ノイマン、ボーア、フェルミ、若手のファインマン……。太平洋戦争の最中、世界と隔絶したニューメキシコの大地に錚々たる科学者たちが続々と集まってくる。
咸臨丸の船員だった日本人の血を受け継ぐ日系三世のアデラは両親にさえ物理学者の夫の仕事の内容を教えられず、住所を知らせることもできない。秘密裏に進む夫たちの原爆開発、施設内の犬と人間の出産ラッシュ。それと知らず家事と子育てに明け暮れる学者の妻たちの平穏な日々。

「新しい世界は神じゃなく、人の子がつくる」――”われは死なり 世界の破壊者となれり”
その小さな神たちが行き場を探して右往左往している。辺りは火火火火火火、赤いものがボウボウと襲いかかる。
世界は戦さの火だらけだ。火火火火火火が荒れ狂う。小さい神々は蟹のように火火火火火火に追われて逃げ惑う。
山の神も火火火火火火、川の神も火火火火火火に包まれ、樹木の神も立ったまま火火火火火火に焼け焦げていく。
焼け滅ぼされていく。

感想・レビュー

※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。

ちょろこ

123
忘れられない一冊。パッと見、このタイトルからこの物語を誰が想像できるだろう。舞台は1943年、アメリカ軍機密基地「Y地」。妊娠、出産、淡々と営まれる女たちの日常。そのすぐ隣で淡々とすすめられる男たちの原爆開発研究。男は仕事について何も語らず、女はなんとなく察しつつも決して尋ねない。この対比はもちろん、暗黙の了解で成り立つ世界に終始薄ら寒さが続いた。一瞬の閃光、人の手によって生み出されていく地獄が忘れられない。"火"、この漢字が意味するもが忘れられない。人間による天地創造が今なお続いていることを感じる良書。2024/04/11

ちゃちゃ

112
『新古事記』とあるが、物語の舞台は戦前のアメリカニューメキシコ州だ。アデラが理論物理学者の恋人とともに移り住んだY地は荒涼たる山岳地帯。軍の管轄下に置かれ全ては極秘裏に進められ、大地に轟くような爆発音は日増しに頻度を増す。全米から終結した科学者たちの優れた頭脳と技術が生み出したのは、恐るべき原爆。天地創造を為し得たのは神なのか。いや、人類が生み出した文明は神の領域をも侵し、天地を創造的にも破滅的にも導く。新しい平和な世界を築くのはほかならぬ人類の叡智に依る。一女性の視点から核の世に警鐘を鳴らす、異色作。2023/09/27

シナモン

104
誰にも知られてはいけない場所「Y地」。秘密裏に行われる原爆の開発研究とそこに暮らす人間と犬の出産ラッシュ。生と死のコントラスト、矛盾が鮮やかに描かれていた。読み始めたら想像していた内容と随分違うし、苦手な戦争のころの物話で読み切れるか不安だったけど描かれるのはそこに暮らす善良な人たちの日常でとても読みやすく引き込まれた。「新しい世界は神じゃなくて人の子がつくる。」2023/10/28

buchipanda3

97
「世界は火火火火火火だらけ。地球をくまなく火火火火火を持った人間たちが行進する」。火は不可欠な存在。でも過度な火はどうか。その漢字の羅列に慄く。本作は原爆を生み出した研究所で働いた学者の妻の目線で語られた物語。それは開発の舞台のアナザーサイド。彼女は研究内容は知らず、その地での出会いから、多くを思う。インディオの所有しない生き方、ユダヤ教の苦難の教え、敵国の血筋である日系の自身。その地は古事記が見せる光景に似ているという。かの地で新たな多くの命が生まれる中、人は破壊者を手にした。その創世の流れは戻らない。2024/01/03

なゆ

69
えっ、そういう話だったとは。マンハッタン計画、オッペンハイマーという単語は知ってはいるが、それがどこでどのようにとは考えたことなかった。Y地と呼ばれる、ニューメキシコの人里離れた台地に隔離されるかのように秘密裏に集まった科学者とその家族。語り手のアデラは、日系三世なのを隠して科学者の彼の婚約者として付いていく。悪魔の爆弾の開発に没頭する夫たちのすぐそばで、妻たちは子を産み育て犬を愛で神に祈るという日常。一日遅れの新聞でしか見聞きしない戦争は、どこか遠い話。奇妙で不条理だと思うが、今だってそんなもんかも。2024/02/06

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