内容説明
自分には何にも夢中になれるものがない――。高校をやめて病院併設の喫茶店でアルバイト中の千春は、常連の女性が置き忘れた本を手にする。「サキ」という外国人の男性が書いた短篇集。これまでに一度も本を読み通したことがない千春だったが、その日からゆっくりと人生が動き始める。深く心に染み入る表題作から、謎めいた旅行案内、読者が主役のゲームブックまで、かがやきに満ちた全九編。(解説・都甲幸治)
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
馨
126
短編集。表題作好きです。何となく気になる人っているし、また、何となく気になる人が読んでいる本って興味があります。『隣のビル』も然り。いつもこちら側からしか見えていない隣のビル。誰が住んでいてどんな部屋なのか。見に行きたくなるのもわかります。『真夜中をさまようゲームブック』は読者に展開を選択させるというストーリーで斬新でした。何回も別パターンで読みたくなります。2024/05/06
エドワード
80
こんな話は本当にあるよね、という津村記久子さんの短編集。標題作の千春は本を読まない。何て娘だ、と最初思うが、あるお客様が忘れた文庫本がきっかけで本を読む。変わっていく千春が感動的だ。ラジオのようだ、という会話が二度出てくる。「喫茶店の周波数」と「行列」。行列はあるあるの連続だ。アレを見るのに12時間待ち、という表現が阪神優勝とタイムリーに重なり笑えた。グッズ販売で爆買いする人々を見ると、経済効果〇億円というのもうなずける。「河川敷のガゼル」はお役所対応と真っ直ぐな人々のよくある光景。逃げろ、ガゼル。2023/09/26
ふう
79
9話の短編集。ちょっと不思議で、ちょっとファンタスティックで、ちょっとブラック。少しずつ雰囲気の違う作品が並んでいますが、どの作品も心にじんわりとしみ込んでくる温かみがあります。できれば作品の中に入り込んで、登場する人々の邪魔にならない距離でそばにいて、珈琲をのんだり、話を小耳にはさんだりしてみたいなと思いました。「サキの忘れ物」千春の確かな歩みと「河川敷のガゼル」ガゼルの自由へと飛び出す姿がとくに好きです。「ゲームブック」は、素直に進んでいったら、けっこう穏やかでいいエンドでした。2024/06/05
Nat
61
図書館本。書店にあったオススメポップに惹かれて借りてみました。何とも不思議な短編集でした。表題作の「サキの忘れ物」が1番好きかな。「王国」と「Sさんの再訪」も割と好き。私もかさぶたが気になって取りたくなってしまう子どもでした。2024/03/10
小太郎
56
この本は書店で帯の文句に惹かれて購入。「いつまでも残響が残った。森絵都」「津村さんの新作は希望のひとつなのだった。益田ミリ」津村さんは割と読んでる作家さん。よく仕事小説の達人みたいに言われるけど、この9編の短編集はバラエティに富んでいて色々変化球も投げられるんだと改めて感じました。この中では圧倒的に「サキの忘れ物」が良い!サキってあの小説家のサキなんだ~主人公千春が本を通して成長していく話なんだけど、出てくる小説家の趣味が良い「クリスティ、モーム、アシモフ、織田作之助」あとは「行列」「王国」★42023/12/01