内容説明
自分には何にも夢中になれるものがない――。高校をやめて病院併設の喫茶店でアルバイト中の千春は、常連の女性が置き忘れた本を手にする。「サキ」という外国人の男性が書いた短篇集。これまでに一度も本を読み通したことがない千春だったが、その日からゆっくりと人生が動き始める。深く心に染み入る表題作から、謎めいた旅行案内、読者が主役のゲームブックまで、かがやきに満ちた全九編。(解説・都甲幸治)
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ドワンゴの提供する「読書メーター」によるものです。
エドワード
103
こんな話は本当にあるよね、という津村記久子さんの短編集。標題作の千春は本を読まない。何て娘だ、と最初思うが、あるお客様が忘れた文庫本がきっかけで本を読む。変わっていく千春が感動的だ。ラジオのようだ、という会話が二度出てくる。「喫茶店の周波数」と「行列」。行列はあるあるの連続だ。アレを見るのに12時間待ち、という表現が阪神優勝とタイムリーに重なり笑えた。グッズ販売で爆買いする人々を見ると、経済効果〇億円というのもうなずける。「河川敷のガゼル」はお役所対応と真っ直ぐな人々のよくある光景。逃げろ、ガゼル。2023/09/26
ふう
81
9話の短編集。ちょっと不思議で、ちょっとファンタスティックで、ちょっとブラック。少しずつ雰囲気の違う作品が並んでいますが、どの作品も心にじんわりとしみ込んでくる温かみがあります。できれば作品の中に入り込んで、登場する人々の邪魔にならない距離でそばにいて、珈琲をのんだり、話を小耳にはさんだりしてみたいなと思いました。「サキの忘れ物」千春の確かな歩みと「河川敷のガゼル」ガゼルの自由へと飛び出す姿がとくに好きです。「ゲームブック」は、素直に進んでいったら、けっこう穏やかでいいエンドでした。2024/06/05
❁Lei❁
76
夢中になれることがない女の子の人生が、バイト先で見つけた忘れ物をきっかけに動き出す表題作ほか8編。その忘れ物は、イギリスのブラックユーモア作家・サキの文庫本なのですが、その皮肉っぽさはこの本全体にも通ずるものです。それぞれの短編では、うるさいお客さんや長蛇の列に並ぶ人々など、人間の愚かな一面が描かれています。しかし、その愚かさから一線引いて見ている感じが、私には合いませんでした。愚かさの中にも切実なドラマはあるわけで、それをうまくおちょくってほしかった。つまり、愚かさを愛する視点に欠けている気がしました。2025/06/11
Nat
68
図書館本。書店にあったオススメポップに惹かれて借りてみました。何とも不思議な短編集でした。表題作の「サキの忘れ物」が1番好きかな。「王国」と「Sさんの再訪」も割と好き。私もかさぶたが気になって取りたくなってしまう子どもでした。2024/03/10
優希
59
面白かったです。短編集ですが、どの物語にも違う味がありました。ちょっと不思議でちょっとファンタジックな世界観が好みです。2024/07/16




