内容説明
たまたま台所にあったボウルに入っていた食用かたつむりを目にしたのがきっかけだった。彼らの優雅かつなまめかしい振る舞いに魅せられたノッパート氏は、書斎でかたつむり飼育に励む。妻や友人たちの不評をよそに、かたつむりたちは次々と産卵し、その数を増やしてゆくが…中年男の風変わりな趣味を描いた「かたつむり観察者」をはじめ、著者のデビュー作である「ヒロイン」など、忘れることを許されぬ物語11篇を収録。
著者等紹介
ハイスミス,パトリシア[ハイスミス,パトリシア][Highsmith,Patricia]
1921年テキサス州フォート・ワース生まれ。父はドイツ系、母はスコットランド系だった。ニューヨークで育ち、バーナード・カレッジを卒業。1945年に雑誌に発表した「ヒロイン」で作家デビュー。1950年の『見知らぬ乗客』、1955年の『太陽がいっぱい(リプリー)』がいずれも映画化されたことで人気作家となった。『太陽がいっぱい』でフランス推理小説大賞を、『殺意の迷宮』(1964年)で英国推理作家協会(CWA)賞を受賞している。生涯の大半をヨーロッパで過ごし、晩年はスイスの山中に暮らしていた。1995年死去
小倉多加志[オグラタカシ]
1934年京都大学英文科卒、1991年没、実践女子大学名誉教授、英米文学翻訳家(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
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感想・レビュー
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アナーキー靴下
82
想像を絶するとのかたつむりレビューに惹かれ読む。悪夢のような11の短編集だが、いずれも傑作揃い。かたつむり、は確かにその破壊力たるや…なのだが、他の収録作品は心理描写に重点が置かれているものが多い。何度も繰り返す激しいアップダウン、キラキラと輝くような多幸感に満たされたと思うと、唯一無二の安寧であるかのような暗く深い淵に沈み込む。無性に泣けてくる。飲み込まれるくらいなら、何もかも全て、飲み込み返してやる。しかしそれは達成されるべきでない願いだ。かたつむりの交尾のように濃密で秘めやかな暴力の応酬なのだから。2022/11/18
ペグ
77
(好きなこと、物)(気になること、物)が妄想を掻き立て。結果狂気に〜。独りよがりの思い込みの怖さ。そういう意味で自己承認欲求の究極「ヒロイン」がとても印象的だった。それにしてもカタツムリ2話は〜想像するだに怖い〜やはりハイスミスは唯一無二の作家だ。関口苑生氏の解説、序のグレアム・グリーンに首肯。2025/03/19
しいたけ
77
映画『PARFECT DAYS』に出てきたので読んだ一人だが、さすがだった。ゾクゾクしっぱなしで面白かった。詰めないエンディングも品が良い。「序」でグレアム・グリーンが解説をしているが、ここでの指摘をあるインタビューでハイスミスが「そんなことはちっとも思わない」と切り捨てたとの話。ハイスミス、カッコいいなあと笑ってしまった。2024/05/31
keroppi
76
映画「PERFECT DAYS」の中で、この「11の物語」が出てきていたので読みたくなった。古書店主の女性が「パトリシア・ハイスミスは不安を描く天才だと思うわ。恐怖と不安が別のものだって彼女から教わったの」と平山に語るシーンがある。平山のところに転がり込んできた姪が、この本の中の「すっぽん」に共感するシーンがある。この本を読んで、どちらのシーンも実に腑に落ちた。一冊の本が、しっかり映画の中で息づいていた。2024/06/21
Apple
56
ふと手に取って読んだ結果、なかなか怪作揃いの短編集でした。作品ごとに読者側が色々と考える余地のある、読者参加型の作品ですが、そう複雑すぎないのでよかったです。巨大カタツムリの研究のため、研究者が無人島で怪物的カタツムリと邂逅する話が恐怖感もすごくて面白かったです。カタツムリについての短編が2篇あるのが興味深かったです。「からっぽの巣箱」という話は、家に出没する謎の小動物と住人の抱く罪悪感との関係を繊細に示唆している作品でした。「野蛮人」で迷惑な中年たちと対峙するマンション住人の話も、共感をよぶ内容でした。2024/04/27