内容説明
1930年代米国南部。スカウトは弁護士である父のアティカスと暮らしていた。ある日、白人女性への暴行の嫌疑がかけられた黒人男性の弁護に父が就き、周囲の白人たちから反発を受けるが--。少女の無垢な瞳を通して当時の黒人差別を克明に記した不朽の名作の新訳
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ドワンゴの提供する「読書メーター」によるものです。
ペグ
83
ひとつの信念を貫く事がいかに大変なことか〜と思う。けれどその信念が多数の人間達の良しとするものに盲目的に組みする事の安易さと狡さは本物の信念と言えるのか。そんないわゆる世間の目の浅はかさと残忍さが描かれる。特に人種差別について。そして子供達の好奇心は無邪気なだけに残酷だ。同調圧力に屈しない弁護士で子供達の父アティカスの強さが素晴らしかった。 子供の頃のカポーティが切なくて。やっぱりこの作品が好き!2023/08/20
たま
74
私が子どもだった頃『アラバマ物語』として有名だった本。映画も名画として知られていた。昨年早川から新訳が出て読んだらとても良かった。1930年代アラバマの田舎町、弁護士の父親アティカスが白人への暴行で起訴された黒人を弁護する。語り手は小学低学年の娘スカウトで、子どもの目から見た田舎町の生活と人間(その社会階層)が活写され面白い。初めは子どもっぽさを示す逸話と読んでいた逸話(弁当を持たない農民の子、隣屋敷に幽閉されている青年、近所の裕福な婦人たちの個性など)が裁判の経過に生かされ、伏線回収になるのも見事。2024/05/20
ケロリーヌ@ベルばら同盟
54
【第248回海外作品読書会】「ものまね鳥は、私たちが楽しめるように、心を込めて歌うだけ。だから、彼らを殺すことは罪なのよ」世界恐慌が人心を荒ませる1930年代のアメリカ南部、激動の世の中から取り残されたような寂れた町で、弁護士事務所を営む父と、その子である兄妹が経験した、幾つかの夏の出来事が、幼くも聡明な少女の視点で描かれる。人種差別や労働者階級の貧困、裕福な婦人たちが取り組む活動の理想と現実の乖離。良心に従い、大多数の原理に立ち向かう父の背中、隣人"ブー"との束の間にして濃密なひと時。不朽の名作の新訳。2024/08/24
ヘラジカ
52
読書好きにとっては「まだ読んでいない」と大きな声では言えない古典の一冊という印象がある。読めばここまで名作として語り続けられる理由が容易に理解できるだろう。全く古さを感じさせない完璧な小説かというと、個人的には疑問符がつくようにも思うが、この多層的な社会問題を子供にも読みやすい物語のなかに落とし込んで、読者に考えさせる蟠りを残しながらも綺麗にまとめ上げた手腕は驚くべきものだ。それも生涯で(殆ど)この一冊しか書いていないというのだから尚更である。今読んでも思わずハッとさせられる名文がいくつもあった。2023/06/26
雪月花
45
名作中の名作。何十年も前に映画を観て心に残った「アラバマ物語」の新訳が出たので手に取った。1930年代のアフリカ系アメリカ人への差別と偏見、白人達の間にもある格差社会が主人公の少女スカウトの目線で描かれる。スカウトの父が、白人女性によってレイプ犯の嫌疑をかけられた黒人男性の弁護をすることにより、スカウトの一家への風当たりは強くなり、裁判の日を迎える。スカウトと兄ジェムと夏だけ過ごしにくるディルの3人の関係と成長が微笑ましい。無垢な人間を傷つけるのはものまね鳥を殺すこと、と語る父の正義が心を打つ。2024/02/16