内容説明
第169回芥川賞候補作に選ばれた、
いま最も期待を集める作家の最新中編小説。
修学旅行で東京を訪れた高校生たちが、コースを外れた小さな冒険を試みる。
その一日の、なにげない会話や出来事から、生の輝きが浮かび上がり、
えも言われぬ感動がこみ上げる名編。
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
モルク
161
高校生の誠の東京への修学旅行。不登校気味の誠は特に親しくもない連中と同じ班となり自由行動の日程を決めるが、彼は一人別行動をとり日野に住む叔父に会いに行こうとする。それと行動を共にする男子たち。バラバラのはずのメンバーが女子が予定通りの行動をとりGPSなどで先生たちを欺きなんとか辻褄が合うように画策することで近づいていく。検索できるにしても上手くいくものだ。最後の武蔵野線のどんどん距離が縮まる車中シーンが印象的。芥川賞候補作、芥川賞は苦手なものが多かったが本作はとても良かった。2024/09/10
みっちゃん
161
このひねくれもんが!ひたすら面倒くさい、こじれ男子の主人公に毒づいていたのが嘘みたいだ。修学旅行、自由行動の1日。GPSまで持たされて班行動が鉄則なのに「俺はおじさんに会いに行く」あまのじゃくにも程がある。何だかんだで付き合う男子、男4人の珍道中。全く素直じゃない、腹の探り合い的な応酬から明らかになるそれぞれの内面の屈託、そして生まれる不思議な連帯感。謎の発言の真意、溢れる思い。あんたらみんな、優しいぞ!ザ・アオハルのラストも良いんだよなあ。これまで読みそびれていたけどまた追いかけたい作家に出会えた。2023/11/13
いっち
153
掲載された雑誌の表紙に、「4人の若者のかけがえのない生の輝きをとらえた、著者の最高傑作」と書かれていた。出版社側が最高傑作と謳った作品で、本当に最高傑作だった作品はあったっけ。そんな感じで読み進めていた。バイアスはよくない。最高傑作だった。4人の若者とは、4人の男子高校生。修学旅行で東京に行くが、そのうち自由行動の1日で、日野に行くことになる。4人は仲が良いわけではない。ただのクラスメイトが、友達になりかけていく関係性の変化が、描かれていた。それを「かけがえのない生の輝き」と表現するのは、ちょっとくさい。2023/06/25
おくちゃん🌷柳緑花紅
138
乗代雄介さんの作品に何故か強く惹かれる。「旅する練習」からファンになってこの作品で5冊目。今回も良い!派手でも奇をてらう訳でもない。だけど、そっと深い。そしてこっそり読む人を感動させる。修学旅行の班のメンバー7名各々の筆跡を物語を読み進めながら想像してみる。1日の自由行動で提出したコースを外れある冒険に!殆ど話もしなかった彼らが、誠君の 目的の為に行動を共にする事で、それを離れた場所で支える事で一気に関係性は変わり煌めき出す。何気ない会話が、何気ない行動が、舞い散る落ち葉が、冷めたピザが、ギターと歌詞。2024/01/21
紫の木
115
自意識過剰な高校生の誠。彼の修学旅行の1日を描いたロードノベル。その1日が濃密というか、きらめきというか、かけがえの無いものとして描かれる。お互い特に親しい訳ではないのに、修学旅行の同じ班になり、誠の学校には秘密の計画を共有することにより、仲間との距離感が近くなっていくあたりの描き方は上手い。最後に、誠の計画に加担してくれた班の女性陣と男性陣が合流し電車でホテルに帰るのだが、車内での疲労と達成感が混じったような感じと、誠と彼が好意を寄せる楓の会話がいい。誠くん同様、何か込み上げて来るような気がした。2023/08/27