内容説明
ベストセラー『オシムの言葉』の著者、木村元彦が描く「旧ユーゴサッカー戦記」シリーズの決定版。旧ユーゴスラビア7つ目の独立国として2008年に誕生したコソボ。1999年のNATOによる空爆以降、コソボで3000人以上の無辜の市民が拉致・殺害され、臓器密売の犠牲者になっていることは、ほとんど知られていない。才能あふれる旧ユーゴのサッカーを視点の軸に、「世界一の親米国家」コソボの民族紛争と殺戮、そして融和への希望を追う。サッカーは、民族の分断をエスカレートさせるのか、民族を融和に導くのか……!?
目次
序章 NATO空爆後 放置された民族浄化
第1章 コソボのマイノリティ 2006年~2009年
1.二度と戻れぬ生家を訪ねて
2.2008年 コソボ独立
第2章 黄色い家 臓器密売の現場 2013年
1.黄色い家 カルラ・デル・ポンテの告発
2.臓器密売の現場を追う
3.オシムの思いを受け継ぐコソボサッカー協会会長
第3章 密着コソボ代表 双頭の鷲か
1.セルビア対アルバニア戦、ドローン事件
2.2016年5月 FIFA加盟
3.2016年 ロシアW杯予選密着
4.2019年6月 NATO空爆祝賀式典
終章 火種を抱え続ける火薬庫
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
巨峰
43
ほんとうにこんなことあるのかと思うくらい酷い。だけど、はじめに蛮行をしたのはセルビア人で、コソボ人的には「目には目を、歯には歯を、」なんだよね。一方だけを責めるのは間違えている2025/08/10
kawa
41
「ヨーロッパの火薬庫」と呼ばれるバルカン半島。1990年代コソボ紛争とその後を、騒乱を縦糸、当地で盛んなサッカーを横糸にドキュメント。当時はセルビア(東方正教)悪玉論が支配、それに乗じたアメリカ中心NATOのセルビア空爆。その間隙の中で起こるコソボ・アルバニア・イスラム勢力によるセルビア人捕虜臓器密売。民族宗教の複雑なモザイク模様の中で起こる悲劇と欺瞞。サッカー界リポートがなければ読み通すのが辛かったかも知れない。複雑なバルカン理解のために最初に出会えて良かった秀逸作品。著者関連書籍も早速リクエスト。2024/08/27
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15
【民族愛ってのは、他民族を憎むことじゃないはずだ(P.47)】セルビア人ラジオ局長の言葉が、コソボの現状を物語る。フラットに向き合い、フランクに付き合うことを阻む壁。何処にでも、自分にも、きっとあるのだろう。その残酷な堅牢さを見せつけられる一方、リスクを越えた連帯は、小さくても確かな風穴となる。2023/05/08
Melody_Nelson
5
木村氏がライフワークとしているであろう、サッカーに絡めてのユーゴ問題。日本にはなかなか伝わってこない情報が得られる。コソボやアルバニアについては、これまでの彼の著書で不穏な気配を感じてはいたが、さらに拉致したセルビア人を殺害して臓器密売をしていたとは…!ISとしてシリアにも送りこまれているのも驚いた。民族や宗教などが複雑に入り組んだ旧ユーゴだが、未だに落ち着いていないのは哀しい。そして、NATOとUSの矛盾を感じる。2023/03/03
お抹茶
3
コソボに住む少数派のセルビア系住民の様子の取材や,コソボにおける拉致被害者がアルバニアの「黄色い家」で臓器を摘出されて密売されていたことを告発したデル・ポンテ調査を後追いする。セルビア人と仲良くするアルバニア人もいるが,民族愛を示すという同調圧力があり,仲間に受け入れられたいときはヘイトが一番効く。モンテネグロの独立と異なり,コソボの独立はアメリカの承認で一方的に行われたため,土地を奪われることになったセルビア人はアメリカにも怒りを覚える。サッカーコソボ代表を巡る監督や選手の苦悩も綴る。2023/12/28