内容説明
現代ドイツの代表的社会哲学者ユルゲン・ハーバーマスが,2007年から2017年にかけての経済危機や欧州連合統合の危機など,相次ぐ危機に直面するヨーロッパの状況について,そのつど発表した政治的エッセイやインタビューを集成.独自のシステム社会論の立場から,危機にあるヨーロッパの問題点を抉り出し,進むべき道を示す.現代文庫オリジナル版.
目次
編訳者まえがき
Ⅰ
デモクラシーか 資本主義か?
民主主義の尊厳を救え!
テクノクラシーに飲み込まれながら
[インタビュー]民主主義のための両極化――右翼ポピュリズムを瓦解させるには
Ⅱ
われわれにはヨーロッパが必要だ――新たな頑迷.共通の未来はどうでもよくなってしまったのか?
歯車の中の砂粒
[インタビュー]破綻のあとで
Ⅲ
行き詰まったヨーロッパ統合――段差をつけた統合に向けて
強いヨーロッパのために――しかし,それはどういう意味だろうか
[インタビュー]ブレクシットとEUの危機――「危機の際に中道を選ぶのは死を選ぶのと同じ」
エピローグ 左翼ヨーロッパ主義者たちよ,どこに行った?
編訳者あとがき
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
やまやま
9
英国の総選挙も終わった。政治思想史の大家の著者は、経済が政治を支配する構造について本質的に疑問を抱くことを宣言する。欧州の通貨システムにより「実態に欠ける」欧州委員会の官僚が経済的に乏しい国への恫喝を行い、自尊心を挫く一方、ドイツ政府(ヘゲモニー国家)が短期的な効用を重視してそのようなEU政策を支持するのは、決して自国のためにもならないと述べる。なぜ、左翼ヨーロッパ主義は復活しないのかと声を大にして主張する著者の信条は、実際の移民問題への対処を考えると、理想(空想)論のような気もするがいかがだろうか。2019/12/14
いとう・しんご
8
経済と情報のグローバル化に伴って国民国家の行為能力は低下せざるを得ないが、これに対抗するためには超国家的な協議の場、欧州においては欧州議会のEU憲法上の確立が急務である、けっして夢物語ではない、と言う本。なるほど、国債を濫発して借金漬けにした政権与党は出資元である財界の下僕とならざるを得ず、だからこそ、彼らの現状維持のために、現実主義という美名の元で、自衛隊と緊急事態条項という無意味で危険なハリボテを押し立てて自らの行為能力を誇示しようとするんだ・・・というイキサツに気がついた一冊でした。2022/04/24
ドラマチックガス
8
とにかく、ただひたすらに、「EUは経済だけでなく政治的にも次の次元をめざせ!! 国民国家の枠組みにいつまでこだわるな!!」と言う主張が繰り返される本だった。また、ヨーロッパの左派とはここまで徹底したものなのかと驚かされる。日本ではそもそも「デモクラシーか資本主義か」という問い自体がたてられることが少ない。コロナをめぐっても、「経済も大切」とよく語られるが、この「経済」というのが一部の金融資本家をさしているに過ぎないということにつくづく痛感させられた。2021/01/29
ふら〜
5
国民国家を乗り越えた先のEU統合をまずは目標とする中での、ギリシャ危機やブレグジットで自国の利益を優先するある種のポピュリズムを批判し、それに失望を表明するハーバーマスの論稿集。ある種こういう知識人による耳の痛い話はそれだけで重要な意義を感じざるを得ない。2022/08/24
Happy Like a Honeybee
4
危機のなかの欧州。 日本の新聞で知るよりも現地の著書が最適と手に取る次第。 ポピュリズム、移民、ブレクシットと独自の問題を、識者の観点から解説する一冊。 ドイツとフランスの駆け引きは、手に汗握る内容だ。2020/08/07