内容説明
2年半の沈黙を破り、満を持して世に放つ貴志祐介ワールド全開の作品集。
最新SF「赤い雨」は、パンデミックが起きたときあらわになる人間の本性を描いた、今読むべき一作。
表題作は、著者自身が「ここまで強いテンションを維持した作品は、書いたことがありません」と断言する手に汗握るミステリー。
人間の愚かさが絶望で世界を塗りつぶすとき、希望が一筋の光となって未来を照らし出す。
〈収録作〉
「夜の記憶」――『十三番目の人格‐ISOLA‐』『黒い家』で本格デビュー前に書かれた貴重な一編。水生生物の「彼」は、暗黒の海の中で目覚め、「町」を目指す。一方三島暁と織女の夫婦は、南の島のバカンスで太陽系脱出前の最後の時を過ごす。二つの物語が交錯するとき、貴志祐介ワールドの原風景が立ち上がる。
「罪人の選択」――1946年8月21日、磯部武雄は佐久間茂に殺されようとしていた。佐久間が戦争に行っている間に、磯部が佐久間の妻を寝取ったからだ。磯部の前に出されたのは一升瓶と缶詰。一方には猛毒が入っている。もしどちらかを口にして生き延びられたら磯部は許されるという。果たして正解は?
ほか「呪文」「赤い雨」の全4作。
※この電子書籍は2020年3月に文藝春秋より刊行された単行本の文庫版を底本としています。
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
absinthe
97
面白かった。短編集なのだが、近未来や終戦直後などまるで異なる時代を描いた短編集。何となく罪の意識で繋がった作品集と言った感じ。表題作はワンアイデアで突っ走った感はあるが、究極の選択を迫られた罪人の心理描写が面白く、オチも良かった。表題作以外は未来を描いたSFなのだが、『呪文』貴志さんらしく和風のテイスト満載で、惑星まほろばの描写は同著者の『新世界』を彷彿とさせ、この作家らしさ満開。『赤い雨』もしんみりした終わりが良かった。2025/03/21
★Masako★
71
★★★★☆三話のSF作品とミステリーの表題作を収録した短編集。デビューの9年前に書かれた「夜の記憶」と最終話の「赤い雨」はどちらも世界設定が素晴らしく切なさも感じさせる壮大な物語だ。2話目の「呪文」は神に対して呪詞を吐き怒りをぶつける住民が住む惑星の話で、オチが見事!「罪人の選択」…どちらかに猛毒が入っている一升瓶と缶詰。罪人が生き残る為に選んだのはどっちか?終戦後と18年後、同じ状況となった二人の男たち。交互に描かれる心理描写が丁寧で緊張感が伝わり楽しめた。どれも読み応えがあり、貴志ワールドを堪能した。2022/11/28
えみ
69
人が外聞を気にせず足掻く姿に何故こうも目が離せなくなるのか。尊厳を守ること、未来に目的を抱くこと、大切な人がいるということ。このどれか一つでも持ち合わせていれば、人はきっと人であることをやめないでいられるだろう。生きるか死ぬかを迫られたとき、心に思い起こせば生きていくことができるのだろう。SFそしてミステリを組み合わせた最高の3篇が収録された短編集。まさかこれがデビュー前の作品だったとは!とその才能に驚愕せずにはいられない一篇も収録されている。突き付けられた理不尽に葛藤する細微な心の描写が素晴らしかった。2022/11/11
ニカ
38
正直「罪人の選択」しか意味が分からなかった。貴志さんは1番のファンだったけど、昔に比べてSFチックな話しが多くてついていけなくなってきた。悪の教典みたいな話しがまた読みたい。2024/09/26
KEI
32
表題作と、終末感のあるSF 3編の計4編収録。やはり表題作が一番面白い。4編はともに面白いが、暗い。ホントに暗い。以上2025/02/15