内容説明
完璧な美と魅力をそなえた男に、絶世の美女なる人妻は激しく恋し、退けられ、なおも追いすがる。旧約聖書ヨセフの物語として知られる話にイスラム神秘主義思想を織り込んだ絢爛たる恋物語。
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
syaori
57
作者はイスラム神秘主義の詩人。旧約聖書のヨセフ(ユースフ)とポテパルの妻(ズライハ)を巡る物語に仮託して彼が語るのは、現世のすべては儚い仮象のもので、地上の美は「根源の美」つまり神の「各局面を映す鏡」なのだということ。ユースフの姿、移ろう儚い美に心奪われたズライハの愛の変遷を通し、詩人は地上の美を通してかの永遠の美(神)に到達するための、人を「真実に導く」ための「唯一の道」は愛なのだと説いているのだと思います。その真理は艶やかな恋人たちのロマンスと綯交ぜとなって絢爛と歌われて、こちらも恍惚となりました。 2020/10/14
syaori
44
ユースフとはヨセフのことで、創世記のヨセフの物語の主人公のこと。ズライハは彼を誘惑する人妻にペルシアの詩人が与えた名。神秘主義詩人のジャーミーはこの物語を絢爛に豪華に歌い上げますが、それはその美が神の永遠の美の反映だからなのでしょう。そしてズライハが苦難の果てに到達する愛は神秘的で甘美なものですが、同時にそれは「バラの色のように儚いもの」。それでも詩人は「黙って愛し、そして苦しもう」と言うのです。なぜなら「宇宙に永遠の運動を与えているのは愛に関わる不安であり、天球を回転させているのは愛の眩暈なのだ」から。2018/06/05
roughfractus02
6
先人の題材を取り上げてスーフィズム的特徴をさらに前景化させる作者の技法は、韻文にその特徴があるとされる。イスラム神秘主義によれば、散文は言葉に重きを置きすぎるからだ。真理は人間が作った言葉の自由にはならないゆえに、感情が重視され、物語では恋愛がその重要なテーマとなる。『クルアーン』に登場する預言者ユースフ(旧約のヨセフ)に懸想する高官の妻ズライハを通し、本書が言葉から肉欲を通して感情へ、さらに真理とシフトするその諸段階は、韻文の調子を身体を通じて高揚させる技法に相関する。なお、本書の邦訳は物語散文である。2022/09/30
荒野の狼
4
旧約聖書の創世記に登場する預言者のヨセフは、イスラム教では、キリスト教においてより、重視されており、コーランでもユースフ(=ヨセフ)章の中で、その生涯が語られている。本書はイスラム教神秘主義のスーフィズムのジャーミーによって書かれた叙事詩だが、日本語訳は通常の物語形式。内容は、ヨセフに関しては、聖書とコーランを踏まえたもので、ヨセフの幼少期からが描かれているが、聖典のハイライトである兄弟と父ヤコブとの感動的な再会の場面は、語られない。2014/01/26
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