内容説明
教科書の戦争記述に国家の「声」を聞き、戦時下の太宰治が作品に込めた秘密のサインを読み解く。ぼくたちが仮に「戦場」に行ったとして、正気にとどまるには。「ぼくらの戦争」とは、どういうことか。膨大な小説や詩などの深い読みを通して、当事者としての戦争体験に限りなく近づく。著者の最良の1作。
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
trazom
151
「ぼくらの戦争」ではなく「彼らの戦争」として戦争を捉えることに危機感を抱く著者。「大きな言葉」「大きな記憶」で語るのではなく、小さな言葉を大切にしようとする。文学こそが小さな言葉の代表であるとして、大岡昇平さん、向田邦子さん、太宰治さんなど、戦争を描いた多くの文学作品を読み解いてゆく。「「思想」で抵抗した人はアッサリ転向するが、「感覚」で抵抗した人は最後まで抵抗する」んだと言う。林芙美子さんの評価など納得しがたい記述も多いのだが、戦後生まれの著者の迷いを正直に語った言葉の数々は、訴える力を持っている。2022/09/24
アキ
129
NHKラジオ「飛ぶ教室」を2020年から毎週聴き続け、知らなかった多くの書籍を手に取ることができた。この分厚い新書は、多くの本を紹介するスタイルをとっている。そのほとんどは番組で紹介されたものである。しかし紹介されていない本もある。ただ単に聞き逃してしまっただけなのかもしれないが、それは大岡昇平「野火」である。著者は九回以上読んだという。立ち上がって拍手したくなったと。著者のガイドに導かれて読んでみたい。本のタイトルは「ぼくたちの」戦争。戦時下と平和な時はそこで生活をするという点でつながっているのである。2022/08/21
rico
118
戦争に関するさまざまな「言葉」と向き合い、戦争の実相を浮かび上がらせてる試み。高橋さんらしく、論はいきつ戻りつ進む。強く圧倒的な力を持つ「大きなことば」は、たとえ空辣で嘘にまみれていても、あらゆるものをねじ伏せる。「小さなことば」はひとたまりもなく蹴散らされる。でも、世界のあちこちにひそやかに生き続け、戦争の「ほんとうのこと」を伝え続ける。たとえば兵士たちが残した小さな詩のように。目をこらし、耳を澄ませ。その言葉を捜せ、受け止めよ。それが「ぼくらの戦争」と向かい合う第1歩だ。そう言われてるような気がする。2022/08/29
へくとぱすかる
105
「小さな声」が「大きな声」にかき消されていくことにかかわって、本書は掘り下げる。多くの戦争文学が、残酷さや悲しさを描いているが、少数ながら、暴力をふるまうことを強制されたら、その時自分はどうするのかについて、その状況や苦悩を描いた作品がある。「二度とあってはならない」と言うのは簡単だが、気がついたら身動きがとれなくなっていた、というのが非常に恐ろしい。実は「前の」ときもそうだったのではないか? ラスト近く、昭和の戦争の経過について年表があるが、そのあとの言論弾圧の年表の方がずっとおそろしく、注目すべきだ。2022/08/21
fwhd8325
99
戦争を知らないことが大半となった今、戦争とはどういうものなのか、様々なアプローチが試みられているように思います。高橋さんのこの著書もとても面白いアプローチだと感じました。教科書から戦時下の詩集、そして太宰治。ついこの間のことが彼方の歴史であると同時に海の向こうでは戦争が絶えない。今度ばかりはいつ巻き込まれるかもしれない恐怖も感じられる。だから、ぼくらはもっと意識しなければいけない。人は決して強くはない。2023/11/24
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