内容説明
「これから、わたしたちはどうなるの?」二人の愛する女から突きつけられた言葉に、ケマルは答えようがなかった。彼の心はスィベルとフュスンの間を揺れ動き、終わりのない苦悩に沈む。焦れた女たちはそれぞれの決断を下すのだが──。ケマルは心配する家族や友人たちから距離を置き、次第に孤立を深める。会社の経営にも身が入らず徐々にその人生は破綻していく。トルコ初のノーベル文学賞作家が描く、狂気の愛の物語。
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
hiroizm
37
他の男と結婚してしまった遠縁女性への愛を捨てきれず苦悶する主人公は、さまざまなな理由をつけて親と同居の彼女の家に日参し、遂には彼女が触れた物を盗み収集する行為、異様なフェティシズムへと堕ちてゆく。彼女の一家が暮らすどこか郷愁感じる1980年代イスタンブール下町の様相や、クーデターなど当時トルコ社会情勢を交えながら、優雅さと憂いをまといつつも狂愛くすぶる心情描写の展開は再読でも引き込まれた。初読時も今回の再読時もやはり小説最後の一行がとにかく深い。超お勧め本。2023/03/17
Shun
36
フュスンへの深い愛情ゆえに、ケマルは生涯をかけ彼女との縁の品を集め博物館にすることを思いつく。ケマルとフュスンの馴れ初めから互いに仲を深めていく過程で、度々ケマルのその危うく偏執的な収集癖が挿し込まれています。そして物語の後半にてようやくその行為は博物館という形へと結実し、彼の魂とも言える愛する女性との思い出はスキャンダルと凋落にまみれながらも、その内実は誇りを持って披瀝できる程にケマルの全てであった。愛した人の博物館を構成する品々と共に、男と女そしてトルコの混沌の時代を辿る大河小説のような壮大さでした。2022/08/27
しゅん
17
全ての恋愛関係が社会的であり、貧富の差、性別の差で期待されている。フュスンの立場からすると、逃げ道のない地獄として見えていてもおかしくない。かつて体を許した、金持ちで執着的なサイコパスの親戚にまとわりつかれ、親も男に同情的という状態を考えれば。社会状況のフェミニズム的描写という側面は確実にある。と同時に、ケマルはスーパー金持ちであるが故に挫折の機会を失った男であり、「金持ちの反省できなさ」という問題も浮かぶ。博物館ってなんなんだろ…という問いが浮かんだままである。あと、後半はどんどん面白く読みました。2023/10/09
ベック
4
結局、最後までケマルに共感することはなかった。自分とは考え方も、受け取り方も、判断も愛し方もまったく違う男の物語は、いってみれば熱を出してうなされている時にみる夢のようで、常ではないが妙に高揚しているような反する感情に翻弄される理不尽な興味を噴出させた。訳が少し難。致し方ないのかもしれない。だって、トルコと日本では違いすぎるもの。何もかもが。2023/01/01
や
3
パムクにとってのフュスンは、かつてのイスタンブールそのものだったのだろう。2023/01/06