内容説明
祖父母の故郷・硫黄島を墓参で訪れたことがある妹に、見知らぬ男から電話がかかってきた頃、兄は不思議なメールに導かれ船に乗った。戦争による疎開で島を出た祖父母たちの人生と、激戦地となった島に残された人々の運命。もういない彼らの言葉が、今も隆起し続ける島から、波に乗ってやってくルルル――時を超えた魂の交流を描く。
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
starbro
211
久々の滝口 悠生、3作目です。著者がどのように進化もしくは変化しているか興味があり読みました。硫黄島を舞台にした家族大河小説、読み応えがありました。 小笠原諸島も硫黄島も知っていましたが、硫黄島が小笠原諸島の一つの島だという認識はありませんでした。 しかしテーマ×分厚さ×価格2500円で本書は1万部も売れないのではないでしょうか❓ キラキラネームよりも「重ル」(しげる;字画を良くするためにルを安直に追加)の方が絶対厭です。 https://www.shinchosha.co.jp/book/335314/2022/09/16
NAO
68
かつて硫黄島に住んでいた人とその子孫との、遥かな時と場所を超えた不思議な交流を描いている。硫黄島にゆかりのある2人の魂は、いまだ行き場を見つけられず、あの世ともこの世ともつかぬ場所でさ迷っている。学生のとき、石垣りんの『崖』という詩を読んで衝撃を受けた。この『水平線』も、同じだと思った。 誰かに自分に気付いてほしい、誰かに自分の話を聞いてほしいというたくさんの声なき声が、今も島周辺の空や海を漂っているのだろう。まだ2月だが、間違いなく今年のベスト3に入るだろう。2023/02/15
路地
56
水平線の上に、そこにあるはずのないものが浮かぶ蜃気楼をイメージしながら読んだ。過去に生きた人とメールや電話でつながる。それもオカルト的ではなくごく自然にあり得ることとして描かれて、その呼び水となった戦争と硫黄島の関係に思いを馳せる。ほぼ知らなかった硫黄島の歴史と戦争の爪痕、翻弄された島民のその後を知ることができた点でも素晴らしい作品だった。2023/04/18
アマニョッキ
55
いつもわたしを裏切らない滝口悠生さんですが、今回も素晴らしかった。たまに出会う永遠に読んでいたい作品ですこれ。いや、聞いていたいかな。小説だからできる自由さと優しさに満ちていて、自然と涙が出るような、ぐはーっとなるような、とにかく愛おしくて抱きしめたくなる時間たち。こういう目線で生きてみたいなと思えることすべてを体感させてくれる。わたしが誰かとか、あなたがどこだとか、今日がいつだとか、そんなことはひろくてのどかな水平線の前ではどうにでもなるのです。装画も題字も素敵。年末年始至福の読書時間でしたありがとう。2023/01/07
ベル@bell-zou
40
否応なく奪われた生活。あったはずの未来。硫黄島の若者たちの声は現代に生きる者たちへと繋がる。サワサワ、サワサワと耳鳴るのは果たして黍畑の音かそれとも太平洋の波の音か。語り手の居場所に違和感がふと掠る。知るはずのない未来を見る夢から目覚める。あぁそうかと気付いたとき、水平線の彼方に永く自在に漂う彼らの世界との重なりを見る。その言葉が屈託なく無邪気なほどに彼らをそうしてそこに留めてしまったものの罪深さにやりきれなさが募り、行間にわたる島風が虚しさを際立たせる。一語一句が身に染み入る読み応え。圧倒された。2023/06/29