内容説明
「チェルノブイリ」と「フクシマ」に通底するものとは?
チェルノブイリは「平和の原子力」の象徴として、ソ連で最も安全で進んだ原発と言われていた。しかし、1986年4月の原子炉爆発事故によって、歴史に汚名を残す末路をたどった。事故からすでに36年が経過しようとし、その間にアレクシエービッチ『チェルノブイリの祈り 未来の物語』をはじめ、数多の著作や研究が世に問われてきたが、ソ連やロシア連邦の根深い秘密主義のために、今でも全容が解明されたわけではない。
最新刊の本書は、構造的な欠陥をはらんだ原発が誕生した経緯から、北半球を覆った未曾有の放射能汚染、多くの人々の心身に残した傷にいたるまで、気鋭のジャーナリストが綿密な取材と調査を通して、想像を絶する災厄の全体像に迫った、渾身のノンフィクション作品だ。
「秘密主義とうぬぼれ、傲慢と怠惰、設計と建造のずさんな基準」といった「原子力国家の心臓部を蝕む腐敗」、すなわち体制のあり方そのものに悲劇の深層を探り、人生を狂わされた生身の人々の群像を克明に描いた、調査報道の金字塔。
本書は、『ニューヨーク・タイムズ』『タイム』『カーカス・レビュー』の年間最優秀書籍(2019年)に選出された。
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
ヘラジカ
63
世の中には眠れなくなるほど恐ろしい本が存在する。そしてそれは必ずしもフィクションとは限らないのである。「秘密主義とうぬぼれ、傲慢と怠惰、設計と建造のずさんな基準」によって引き起こされた、史上最大規模の原発事故の全容。放射線の恐ろしさは勿論だが、中央集権国家の情報統制とプロパガンダ、人を人と思わない人海戦術は、現代のロシアにも間違いなく通じるものがあるだろう。今なお世界を脅かすチェルノブイリ原発と核戦争の危機を考え、読んでいて頻繁に身震いしてしまった。この時代、この国を生きる人々にとって必読の名著である。2022/03/07
たらお
27
安全性よりも工期を優先させる圧力によって重大なエラーが引き起こされること。そして、生贄は大本ではなく、トカゲのしっぽ切りのように末端の人間が背負わされるというのも現在に通ずるものがある。チェルノブイリの事故の原因は、設計自体に重大な欠陥があるのを知りながら、設計側はそれを原発側に知らせず、原発側も定期点検時に異変があったのを認識しつつ、運転を停止しなかったために制御不能に陥るという顛末。制御の難しさと廃炉や汚染処理にかかる費用を考えると、国の命運を左右する爆弾のようなものだと感じる。2024/01/13
鮫島英一
20
秘密主義・事なかれ主義の極致、その言葉がもっとも相応しいソビエトが生み出した災厄の物語。明らかな欠陥があるにもかかわらず改修を怠り、情報を共有せずされど巨大化による複雑化を追求した。この狂気の産物はいずれ破綻する宿命にあったのだろうが、ソビエト末期に破綻が訪れたのは歴史の必然なのか? 形振りかまわらず生体ロボットという名の兵士を投入し、資金をガンガン投入することで災厄を抑え込むが、高すぎるコストは瀕死の病人に止めを差す。狂気の帝国が狂気のシステムによって滅ぼされたのは、やはり歴史の必然なのだろう。2023/09/21
フロム
10
大著である。コレを読めばチェルノブイリ事故の発生から現在までの一通りを理解できる。僕は運転員のやらかしで爆発したと思っていたが、本著によりソフト、ハード両面に問題があった事が理解できた。本著の見所はズバリ爆発後の対応。国難レベルの問題起きた時はその国のダメな面と凄い面の両面が露わになるが、ダメな面ささておき、普段は怠惰で官僚的なソ連人が人が変わったかの様に英雄的に働く様は非常に心打つ。何というか人って凄いなと思う。だったら初めからチャントしとけって話ではあるが。大変だけど読む価値はありますよ。この本2022/08/14
富士さん
6
こういうのは好きなので、偶然見つけて。事故だけでなく、ソ連の原子力政策や技術、社会の在り方などが順序を追って平易に書かれており、一気に通読出来ました。多くの関係者が名を連ねる注は圧巻でもあり、ジャーナリストらしいよい本です。多くは今でも悪人扱いされる、発電所長を中心とした吊し上げ裁判の被告たちに視点を置き、より事故の原因を設計の欠陥と社会的な要因に求めています。チェルノブイリ事故については、映像ではしばしば見ていましたが、丁寧な記述を読むと、関係者の立ち位置は複雑で単純な理解は難しいなと痛感します。2023/05/11
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