内容説明
『小公女』に登場するミンチン先生といえば、意地悪で醜い独身女。女教師に対してこんな冷たい眼差しが注がれていた19世紀イギリスで、男子校に引けを取らない教育を行う、教師養成のための女子校が誕生した。女教師は女教師を育て、やがて活躍の場を求めてイギリス本国を飛び出していく。インドやカナダ、アフリカ、そして西インド諸島――。大英帝国にイギリス式女子教育を広める冒険の旅は、各地に何を残したのか。その旅路の果てに、知られざる「ブラック女教師」の物語が立ち現れる。
目次
はじめに
第一章 ミドルクラス女子の生きる道──『ジェイン・エア』と『小公女』
1 『ジェイン・エア』──女教師とガヴァネス、どちらがましか
『ジェイン・エア』の時代背景
働きたいのに働けない女性たち
ブロンテ姉妹の「女教師」への道と挫折
寄宿学校でのサバイバル
寄宿学校女教師からガヴァネスへ
2 『小公女』──ミンチン女学院校長の苦悩
作者バーネットが描いたイギリスの女学校
セーラがはるばる「本国」にやってきた理由
ルソーの女子教育論
ウルストンクラフト発、女子教育改革
水準の高いガヴァネス養成学校の開校
取り残されたミンチン校長の苦悩
第二章 帝国の女教師──直轄植民地インドと自治領カナダ
1 インド──「文明化の使命」の行使先
男子並み教育の「その先」を求めて
アネット・アクロイドの充たされない日々
植民地インドにおける社会改革
「文明化の使命」をみずからに課す
ミイラ取りがミイラになるプロセス
未完に終わった「帝国の妹たち」への教育
2 白人定住地域へ──女校長協会の活躍
白人定住地域への進出
女校長たちの権力掌握と次なる野望
サラ・バーストールの歩み
ケンブリッジウーマン・ネットワークの形成
ネットワーク枠外の女教師たち
階級制度維持装置としてのイギリス型女子中等教育
3 カナダ──イギリス型女子教育から見た『赤毛のアン』
プリンス・エドワード島へ
作者モンゴメリの希望を託されて
カナダ生まれの女教師アンの教職経験
本国女教師撤退の土壌
カナダからの手紙
アンへのまなざし
第三章 バッシング──戦後の混乱のはけ口
1 反動のはじまり──女子中等教育の完成期
女教師とサフラジェット
反動への序章
女校長たちのフェミニズム闘争
「闘う女教師たち」のステイタス
高まるワーキングクラス女性の不満と抗議
最後の承認
2 敵視される女教師たち──ドロシー・セイヤーズ『学寮祭の夜』
巧妙な批判
フェミニズム(女性運動)の大転換
「独身女性はレズビアン」
学問となった「性科学」
舞台はオクスフォード大学女子学寮
独身・超高学歴女性が既婚女性を部下にしたとき
既婚女性の長い独白
嫌悪と批判の中から取り出された真実
次なる、そして最後の実践地
第四章 新天地を求めて──アフリカ、西インド植民地のイギリス型女子教育
1 アフリカ支配地域──女校長協会の植民地進出
女校長バーストール、植民地省直属機関に加入する
アフリカ研究と教育との関わり
女教師vs女性宣教師
植民地政策vsエリート女教師の「理想のアフリカ女子教育」
現地からの重大情報
イギリス型女子中等教育の断念
2 ジャマイカ──肌の色と女子教育
自治権要求運動の激化
「肌の色のグラデーション」に対応する女子教育
いとこ同士の間の差異
肌の色のグラデーションと植民地階層社会に支配される人々
女子寄宿学校というステイタス
バナナの林をガウン姿で闊歩する女教師たちへの憧れ
イギリス型女子教育による排除への認識
教職という選択
ブラック女性としての人生
3 ドミニカ──ジーン・リースから見た本国の女子教育
植民地生まれの英系白人(クリオール)少女の体験
もう一人のセーラ
クリオール女性の多難な人生
堕ちたケンブリッジ・ウーマン
幽閉された妻を描いた『広い藻の海』
本国への復讐
第五章 「ブラック女教師」の誕生──植民地教育を受けた子どもたちの来英
1 ウィンドラッシュ世代──「必要とされてやってきた人々」の苦闘
二〇一八年ウィンドラッシュ号来港七〇周年
リースの描いた西インド移民女性の日常
ノッティンガム・ノッティンヒル事件
移民法と、急いで家族と合流する人々
ウィンドラッシュの娘たちの運動史
「ブラックの歴史」に行き着くまで
2 ベヴァリー・ブライアン──知られざる「ブラック女教師」の物語
移民と帰国者というダブルの経験
ジャマイカの子ども時代とイギリスへの編入学
編入学直後の二重の困難
ブラック少女の中等学校進学
女教師たちからの支援
ブラック・コンシャスの時代
女教師への道
ブラック女教師、コミュニティで採用される
ブライアン先生の教室と「カリキュラムの脱植民地化」
OWAADのフェミニズム
次世代のためのSUS法撤廃運動
ジャマイカでの新たな挑戦
小公女セーラからブラック・フェミニズムまで
おわりに──ダイアナ・レオナード(Diana Leonard)のこと
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引用・参考文献
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